チャンスを生かせないトップは存在価値なし:間違いだらけのIT経営(2/2 ページ)
企業が事業を進めるにあたり、時には法令に対応しなければならない。それを「面倒くさい」と言っておろそかにするような経営者は話にならない。
内部統制は経営クオリティ向上のチャンス
さて、J-SOX法への対応である。考え方は、ISO9001の時とまったく同じである。「なぜ、こんな面倒なことをやらなければならないのだ」。これはB社長だけではなく、多くの企業の社員の本音だろう。しかし、せっかく与えられた経営改革のチャンスだ。
内部統制の中でもJ-SOX法は、直接的には統制の正しさをもって財務報告の信頼性を保障するという内容である。しかし、法制度への対応のみを目的とすると、内部統制の積極的な意義が見出せず、その準備や実行が大きな負担となり、B社長のような姿勢になる。
金融庁が示す実施基準にある内部統制の目的に、(1)業務の有効性及び効率性、(2)財務報告の信頼性、(3)事業活動にかかわる法令等の順守、(4)資産の保全、とあるが、経営活動全般に視野を広げることによって、内部統制を経営クオリティ向上の機会と考えることができる。
内部統制をいろいろな経営視点からとらえてみると、企業活動の基準となる規約、それを守るプロセス、実行した証拠、そしてその評価など企業統治そのものである。内部統制をきっかけに、ITを活用して業務を可視化し、業務効率化につなげることもできる。さらに、認証強化、アクセス管理、総合ログ管理など、企業ITのセキュリティ基盤の見直しや強化にもつながる。もちろん、顧客へのサービスの統一や向上も期待できる。こうしたことから、内部統制は構築することがゴールではないことが分かるはずだ。
なお、内部統制を構築するにあたり、業務や組織活動にITを有効に取り入れている企業、あるいは内部統制の準備や実行を効率的に進めようとする企業にとっては、ITが不可欠の要素となる。
筆者はB社長に対し、取締役会での研修や単独での面談などで繰り返しこの考え方を強調した。効果は出てきていると思うが、トップたるもの、せっかくのチャンスを外部から強制されるのではなく、自ら生かすようになりたいものである。
プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「わが社のシステムは最強」――大昔の成功に固執し時代から見捨てられたトップ
IT導入に成功したことを自慢する経営者がいる。大いに結構なことだ。しかし、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、20年以上も前に導入したシステムにかじりつかれていても……。 - 課題の本質が見えない経営陣――接待に明け暮れ給料払えず
企業が抱える課題を明確に理解せずに、見当違いな行動を取るトップがいるとは嘆かわしいことだ。彼ら自身が変わらない限り、その企業に未来はない。 - そもそも何かがおかしい――役員が社内で長時間PC麻雀
Web2.0、はたまた3.0という時代に社内のインターネットによる情報収集を禁止している企業が、まだまだある。禁止か開放か、時代錯誤さえ感じるテーマから見えてくるものは、やはり企業風土の持つ重みだ。 - 「居眠り社長」が連絡会議で聞きたかったこと
ITベンダーとのやりとりの中で一番大切なのは、ユーザー企業ともども適度な緊張感を持って導入に臨むことだ。