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【第2回】忘れ去られた「顧客」、そして「長期」という視点石黒不二代のニュースの本質(1/2 ページ)

米国の投資銀行がつくり上げた“虚構の市場”は、世界中に甚大な打撃を与えるまでになった。その虚構のビジネスモデルを支持した企業は、経営において最も大切な「顧客」を金もうけの道具としか見ていなかったという。

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 2009年になり、わたしたちが垣間見るニュースは、今回の不況が非常事態であることをあらためて認識させるものばかりです。日銀総裁が「まるで崖から落ちるよう」と表現したように、景気は急降下し、世界的に恐慌の様相を示してきました。

 要は、信用経済が作り出した市場は信用の名が示すように架空のものであり、実体経済の大きさはわたしたちが信じていたそれよりもずっと小さかったということです。米国が震源地であるにもかかわらず、実体経済への影響は、日本市場で驚くほど大きなものです。これも、わたしたちがいかに米国経済に依存していたかを物語っています。

 第1回目のコラムでは、信用経済と実体経済のつながりを解説したつもりですが、そもそも米国の金融業界の仕組みは、一般の人に非常に分かりにくいものです。ですから、不況の渦中にある今こそ、その実態をかみくだいて説明したいと思います。かみくだいてという意味は、わたしたちの側、つまり顧客視点で実態を理解していただきたいということです。それが、金融だけでなく、今後必要とされる新しい市場の形成には大切なことだと思うからです。

業績の下方修正を繰り返す大企業

 まず、ここ1カ月の間にあった重要な報道の一部を挙げてみます。

 当事者である米Goldman Sachsが最近はじいた推計では、金融機関の米国のローン関連で抱える損失は2兆ドル(約180兆円)に及ぶということでした。これからも住宅は値下がりする見通しですから、この推計は今後さらに膨らみます。債権や株式の含み損、クレジットカードなどのローンにからむ損失も増えるため底が見えません。

 1年前に2兆2000億円の利益を出していたトヨタ自動車が今期は1500億円の損失、その発表も覚めやらないうちに、損失は数千億規模に拡大し再び修正しました。ソニーも当初は2009年3月期の営業利益を4700億円と予測していたものの、昨年10月に下方修正しました。しかし歯止めがかからず、1月に2600億円の赤字を発表し14年ぶりの赤字転落となりました。東芝は2800億円、日立は7000億円の赤字と、共に過去最高の損失を計上しなければならない予定です。優良な大企業がそろって数回にわたる下方修正を発表しているさまは、景気の悪化が予想をはるかに上回るスピード、深さ、広さで拡大していることを物語っています。

 米国でも、最も強いと言われていたハイテク系企業が大きく業績を落とし、リストラを発表しています。半導体ジャイアントの米Intelは、純利益9割減と発表、3度にわたる下方修正です。Intelの業績は各アナリストが景気指標として使っています。Intelの業績悪化は、この不況が長引くことを物語っています。市場規模に対応するために、5つの工場の閉鎖とそれに伴う5000人〜6000人規模の従業員削減を発表しました。米Microsoftは、買収後の業務重複によるリストラ以外に過去リストラをしたことがありません。予想を大きく下回り純利益が11%落ちたため5000人のリストラを発表しました。

 インターネットジャイアントの米Googleさえも、100人の採用担当のリストラに踏み切りました。新聞広告やバーチャルワールドなど、多角化のために仕込んできた新しいビジネスをいくつか断念しています。

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