「情報」が第四の経営資源になる条件:Gartner Column(3/3 ページ)
前回のコラムでは情報を保有しているだけでは、競争優位は生み出せないということを解説しました。今回は情報活用を改善する姿勢とその能力を指す「情報指向」を説明します。「ヒト、モノ、カネ」に次ぐ経営資源として情報を活用しましょう。
情報指向で競争優位性を確保せよ
前回から2回にわたり、「価値ある情報は競争優位を生み出すのか」について説明しました。この命題に対する回答は、イエス、ノーのどちらでしょう。わたしは「イエス」と回答します。ただし、情報を整備するだけではダメだということを十分に理解した上での「イエス」です。どれだけ高度な情報システムを配備し、情報マネジメントの投資やプロセスの整備を実施しても、それだけでは競争優位を保つことにはならないということを忘れないでいただきたいのです。
われわれの行動は、われわれの価値観によって形成されます。情報に対する価値を持たない組織では、情報指向の行動が起きません。前述のマーチャンド氏らによると、情報指向とビジネスパフォーマンスは相関関係にあり、情報指向の高い企業・組織は世界中でも少数ということが報告されています。情報指向を高めることは、競合他社にはない能力を保有し、他社に対して競争優位に立つことにつながります。
日本企業の経営トップの方々は、「情報システムは、自動化、機械化による合理化にしか役立たない」と考えている場合が多いように感じます。こうした経営トップの配下にいるIT部門の方々は、たいへん残念ですがお気の毒さまです。しかし、「価値ある情報は競争優位を生み出す」ことは世界的に疑う余地はありません。
情報指向の重要性を認識した事例として、2002年後半に行われたMcKinsey and Company (McKinsey) の発表があります。そこでは、社内レビューの結果「1990年代のエンゲージメントの多くは、内部の情報管理プラクティスが適切でなかったために被害を被った」という結論が導き出されています。そこでMcKinseyは、情報マネジメントに対する投資額を年間売上高の0.3%からおよそ3%(3000万ドル)に引き上げました。これは経営コンサルティング業界の大手他社と同等の水準にあたります。
一方で、多くの企業は情報指向の企業文化を持っていません。CIO(最高情報責任者)にとって、「情報指向のカルチャーを生み出すために、どのような活動に着手すべきか」は、真っ先に解決すべき問題といえます。
著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー
2006年にガートナー ジャパン入社。それ以前は企業のシステム企画部門で情報システム戦略の企画立案、予算策定、プロジェクト・マネジメントを担当。大規模なシステム投資に端を発する業務改革プロジェクトにマネジメントの一員として参画した。ガートナーでは、CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」の日本の責任者を務める。日本のCIOは、経験値だけでなく、最新のグローバル標準を研究した上で市場競争力を高めるべきとの持論を持つ。
自社のどの部分にITのリソースを適用し、競争優位を発揮すればいいのか。それを考える足がかりになる「戦略的情報マネジメント」について、5月27、28日に開催する「ビジネス・インテリジェンス&情報活用サミット 2009」で講演する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
Gartner Column:情報は企業の競争優位を生み出すか――最高不可視責任者(CIO)から脱却する
今回は「価値ある情報は競争優位を生み出すのか」というテーマです。ガートナーで多くのことを学びました。1つが「言葉の意味を正確に理解する」ということです。Gartner Column:IT戦略の立案――景気低迷の今こそ企業に貢献する
残念ながら、日本においてプロセスとかプロセス改善の意味を正確にCIOや経営者に伝える役割を担う人があまりいません。Gartnerのノウハウを交えながらIT戦略を立案する方法を紹介いたします。Gartner Column:価値理念を1つだけ選ぶ――それがIT戦略策定のポイント
ナンバーワン企業の価値理念はたった1つ。前回ソニーの例を出して紹介した。今回は世界と日本のCIOにとっての価値理念の違いなどに触れながら、IT戦略の効果的な策定方法について述べる。Gartner Column:ナンバーワン企業の共通点――「たった1つの想い」
業界ナンバーワンの企業を調査したところ共通点が見つかった。「たった1つだけ保有していること」である。Gartner Column:IT投資の責任は誰にあるのか
今回はIT投資の責任は誰にあるかについて考えます。IT投資の失敗はビジネス部門の責任だと思っている人も多いのではないでしょうか。Gartner Column:IT予算をさらに極めましょう
前回、IT予算についてのお話をしたところ反響が大きくて驚きましたので、今回は続編をお届けいたします。皆さんのお仕事の苦労が経営層に一目で分かるようなIT予算の考え方をお話します。Gartner Column:IT部門は経営者の期待を背負って何をするべきか
ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナーを務める小西一有氏のコラムの2回目。経営者からIT部門へ向けた前回とは反対に、CIO/IT部門が経営者の期待を受けてするべきことについて話す。Gartner Column:経営者はCIOやIT部門に何を期待するか
ガートナー ジャパンの小西一有です。「経営とITの関係を改善する」という難解なテーマについて、調査結果を基に読者の皆さんに説明したいと考えています。