「ユーザー部門にも責任を負わせる、言いっ放しで終わらせない」――JTB・志賀常務【前編】:経営革新の担い手たち(2/3 ページ)
「経営者、業務部門、IT部門の三者の利害は決して一致しない」――JTBの志賀常務は語る。プロジェクトが失敗する主要因もこれだ。そこで関係者全員を巻き込み、かつ全責任を一人の担当者に負わせるという大胆な体制をつくり、業務改革を推進した。
プロジェクトの責任の所在を明確に
――IT部門と業務部門に溝があるという課題をよく聞きますが、まさにそれを解消するための方法だと思います。プロジェクトオーナー制を立ち上げた背景、きっかけとなった出来事を教えてください。
志賀 先ほどお話ししたように、知らず知らずのうちに予想以上の開発コストがかかっていて、プロジェクトが立ち遅れることが数多くありました。何とかせねばという思いからIT戦略委員会とともに立ち上げました。従来だと、たとえ開発プロジェクトにおけるユーザー部門の責任者であっても、要件定義が終わってしまえば、後は開発部門側の問題になっていました。ユーザー部門側が言いっ放しで終わらないよう受益者負担主義にして、最後のコスト負担までを一人の人間が明確に責任を負うような体制にしました。
直近の例でいうと、2009年1月にサービスインした海外業務パッケージ「新ルックシステム」は、本社の業務部門の執行役員がプロジェクトの全責任を負いました。現在、彼は海外旅行パッケージ造成会社であるJTBワールドバケーションズの社長になっていますが、引き続きプロジェクトオーナーを務めています。
――プロジェクトオーナー制の導入は、開発部門にとっては喜ばしいことですが、ユーザー部門からの反対はなかったのですか。
志賀 特に抵抗もありませんでした。当初はどう立ち振る舞いしたらいいか分からない人もいましたが、プロジェクトオーナー制に移行して最初に手掛けた個人向け海外ツアーの販売システムが成功したので、それ以来、ユーザー部門もきちんと対応してくれるようになりました。
――CIOになられて、初めてIT部門を見るようになりました。とまどいはありませんでしたか。
志賀 わたしはこれまで人事や経営管理の業務を長く務めてきました。2000年から新たな仕事として市場開発部門(現・事業創造部門)の部長になりました。同部門の最大の使命はインターネット販売でした。当時はまだそれほどインターネットがビジネスの土台になっていない時期でした。そのとき疑問に感じたのは、IT部門も営業戦略を立案する部門もリアルな店舗が中心で、インターネット販売は異端と見ていました。JSSもインターネットと情報システムは別という考え方を持っていたため、インターネットサービス開発は別の部門が外部ベンダーと直接やり取りしている状態でした。当然、JSSにはノウハウがたまらないわけです。
今後さらにインターネットがオープン化していく中で、このままだとグループ全体がビジネスの波に乗り遅れてしまうという危機感がありました。そうした問題意識を持っていたので、CIOに着任後、ITの技術的な部分ではとまどいがあっても、政策的な部分については大まかな改革イメージを持っていました。それがIT戦略委員会の早期立ち上げにもつながったのです。
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