「ユーザー部門にも責任を負わせる、言いっ放しで終わらせない」――JTB・志賀常務【前編】:経営革新の担い手たち(3/3 ページ)
「経営者、業務部門、IT部門の三者の利害は決して一致しない」――JTBの志賀常務は語る。プロジェクトが失敗する主要因もこれだ。そこで関係者全員を巻き込み、かつ全責任を一人の担当者に負わせるという大胆な体制をつくり、業務改革を推進した。
クラウドに対する懸念も
――この1月に予約・発券業務システム「TRIPS」をオープン系に移行しました。ホスト系からオープン系に切り替えた最大の要因はコスト削減だったのですか。
志賀 基本的にはコスト削減が目的です。加えて、基幹システムの柔軟性を求めました。今までのレガシーシステムは、継ぎはぎのように機能追加された固定的なシステムでした。マーケットに対応した形でシステムをつくろうとしても、柔軟性に欠けていれば企業にとって致命傷になりかねません。
当社ではインターネット経由での販売が増えてきているため、店舗サービスとインターネットサービスが別々のシステムのままだと、コスト面などで一層の負荷がかかってしまいます。インタフェースやデータベースなどを共通化したり、ノンコア部分のシステムをアウトソーシングしたりする際には柔軟性が必要で、もはやレガシーシステムでは実現不可能でした。そこで2004年からオープン系への移行を進めてきました。ただし、まだオープン系の特性を完全に生かしきれていないので、長期ITプロジェクトを組んで、オープン系を最大限に活用するための基本計画を策定しているところです。2015年までには完了させる予定です。
――ノンコア部分のシステムをアウトソーシングするとありましたが、クラウドコンピューティングの活用は検討されていますか。既に、旅のアルバムサービス「Toripoto」は、マイクロソフトのクラウドプラットフォームサービス「Azure」で運用しています。
志賀 IT戦略委員会で討議して、今年中にグループ企業のメールシステムをクラウド化する方向性を決めました。メールシステムのように明らかにノンコアであれば問題ありませんが、外部委託するためには、基幹システムにおいて何がコアで何がノンコアかを整理する必要があります。線引きが終われば、可能なものは思い切って外に出したいと思います。
懸念もあります。クラウドコンピューティングにすると当社側でシステムを把握できる部分が少なくなるため、例えばバグが生じたとき、当社とサービス提供者のどちらに問題があるのか分からなくなる恐れがあります。システムを活用して直接顧客とビジネスする立場からすると、その不安感は強いです。レガシーシステムだと、長年の経験でどこに問題があるのかはすぐに分かります。
最適解を生み出すのがCIOの役目
――人材育成について、JTBグループ全体では「JTBユニバシティー」という研修プログラムがありますが、IT部門独自の育成方法があれば教えてください。
志賀 ITの技術的な教育はJSSで行っています。スキルを広めるためにJSSで学んだ人材をほかのグループ会社に駐在させるほか、JTB本社のIT戦略を策定するIT企画部門にも多くの若手社員を送り込んでいます。IT企画部門では、JSSの執行役員やユーザー部門の社員などさまざまな人材が集まり、相互に協力してプロジェクトを進めています。そうした日々の業務がOJT(職場内訓練)になっています。
今まで技術畑だけで育った社員が急にIT戦略や経営企画の一翼を担うので、相当苦労している面がありますが、思わぬ才能が開花するケースも目にします。
――CIOの役割やあるべき姿について、考えをお聞かせください。
志賀 経営戦略や営業戦略を推進するとき、経営者、ユーザー部門、IT部門それぞれに思いがあり、どうしても対峙する部分があります。ユーザー部門は自分たちのサービス改善を優先するあまり、システム開発に対する要求が強くなります。IT部門側は、限界を感じつつも何とか要求に応えようとします。経営者は双方の意見を聞きつつも、コストを安くしろと無理な要求をします。オーバースペックになれば時間とお金がかかることは間違いありません。戦略の方向性と擦り合わせながら、最適解を生み出していく役割がCIOだと思います。三者の利害は絶対に一致しないので、IT戦略委員会をつくり全員を巻き込んで議論する体制にしました。
最近ではユーザー部門がコストを気にする場面が増え、IT部門がそれに応える形で機能の見直しなどを提案しています。あるプロジェクトでは、ユーザー部門からIT部門に「オーバースペックだから抑えるように」というけん制が入ったほどです。メンバーの意識は確実に変わってきています。
インタビュー後編「世界のライバルに勝つためのアジア戦略」に続く。
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