「世界のライバルに勝つためのアジア戦略」――JTB・志賀常務【後編】:経営革新の担い手たち
旅行業界において、日本では首位に立ち続けるも世界ではいまだ6位にとどまるJTB。志賀常務は、先を走る欧米企業に勝つためには、他社にない独自の戦略が不可欠だと主張する。
経済危機に伴う円高で日本の輸出型産業は経営を根底から揺さぶられている。内需型への転換が叫ばれるが、一方で加速する高齢化、人口減少といった問題は無視できない。こうした状況の下、これまで内需中心だった日本の旅行業界は、グローバル市場に打って出て、並み居る世界の企業と競い合うための戦略が求められている。ジェイティービー(JTB)の常務取締役で経営企画部門およびIT部門を担当する志賀典人氏は、「アジア戦略」を掲げマーケットの拡大を狙う。
アジアを軸に世界の競合と戦う
――グローバル展開に関して、JTBの海外拠点はどのような機能を持つのでしょうか。海外マーケットに向けての戦略的な位置付けなのでしょうか。
志賀 現在、海外には91カ所の拠点があります。そもそも海外拠点を立ち上げたのは、現地のホテルの手配や飛行機予約など日本から来たお客様をサポートするためでした。数年前から日本の少子高齢化に対応すべく、営業を強化し海外から日本への旅行客を増加させる取り組みなど、旅行業務のグローバル展開を進めています。
――JTBは現在、旅行業界で世界第6位です。今後海外のトップ企業と競争していく上で、どのような戦略、施策をお考えでしょうか。
志賀: どの事業に注力するかが重要です。上位5社はそれぞれ特色があります。1位のTUIと3位のThomas Cookはともにヨーロッパの会社です。両社の特徴は、ホテルや航空機、クルーズなどを自社で持っていることです。2位の米American Expressは、クレジットカード事業を手掛けているので、ビジネストラベルが強みです。4位はオンラインで宿泊予約などのサービスを提供する米Expediaです。5位の米Carlson Wagonlit Travelは、マーケティング機能が充実したビジネスソリューション型の旅行会社です。日本ではJTBと合弁会社をつくり、外資系企業を中心に事業展開しています。
そうした中で、JTBはどのような特色を打ち出していくべきか考えると、航空機などハードを抱えるのは日本的ではありません。ビジネスソリューションについても、欧米と日本の市場規模はまったく異なり難しいでしょう。Expediaは当社と比べて10倍程度のシステム投資をしているため、これもまねできません。すなわちJTB独自の強みを生み出さなければなりません。
そこで考えているのが、アジア戦略です。中国を中心にアジア市場で収益を拡大するかが課題です。欧米からアジアに来る旅行客と、アジアから欧米に出て行く旅行客を相互交流させるようなビジネスができないか検討しています。今後のボリュームゾーンは確実にアジアです。アジア市場を足掛かりにして、長期的にはヨーロッパ市場も視野に入れています。世界で1位、2位になることは難しいかもしれませんが、3位は十分に目指せるはずだと考えています。
問題なのは、中国は外資企業への規制が強くて自由にビジネスができません。これが撤廃されれば市場参入しやすくなるのですが、当面は厳しいでしょう。
――日本国内の旅行会社に対しては、どのような考えをお持ちでしょうか。
志賀 国内において旅行業全体ではJTBが1位ですが、個別の分野では負けています。インターネット経由の宿泊予約でいえば、じゃらんや楽天トラベルの後塵を拝しています。海外旅行に関しても、格安航空券や安価なツアーだとHISの割合が高いです。彼らとの競争に勝ち抜いて足元を固めないと、いくらアジア戦略だと叫んでも意味がありません。
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