イノベーションと正しく向き合い、収益を最大化させるには?:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)
8月28日、「第10回ITmedia エグゼクティブセミナー」を開催した。同セミナーで講演した早稲田大学大学院教授の根来龍之氏によると、企業の成長を支えるイノベーションには4つの“代替パターン”があるという。
イノベーションは既存市場を“破壊”する存在か?
企業経営における「イノベーション」の重要性について、改めて多くを語るまでもあるまい。事実、これまでさまざまな業界で、産業構造の“地殻変動”がイノベーションによってもたらされてきた。カメラ市場ではデジタルカメラがフィルムカメラの代替としてその市場を奪い、携帯型音楽プレーヤー市場ではアップルのiPodが、その使い勝手の高さから極めて短期間に圧倒的な支持を集めるとともに、楽曲をダウンロード販売する「iTunes Music Store」といった新たなビジネスを創出したのは記憶に新しい。その結果、従来からの製品は急速に陳腐化し、事業の継続を断念せざるを得ない企業も少なくかった。
だが、イノベーションは既存市場を果たして“破壊”するだけの存在なのか――。早稲田大学大学院教授で早稲田大学IT戦略研究所所長と経営情報学会会長を務める根来龍之氏は、冒頭で、その点について次のように言及した。「イノベーションの議論では、その華々しさから破壊的な効果に目が向けられがち。だが、イノベーションを正しくとらえるためには、その結果、市場が多様化したり、新技術の普及に長い期間を要したりといった点も同時に考慮する必要がある。そこであらためて強調したいのが、イノベーションは既存技術を完全に代替するのではなく、部分的に代替するケースが圧倒的に多いということなのだ」
破壊的イノベーションはイノベーションの1形態
根来氏はその著書「代替品の戦略(東洋経済新報社/2005年)において、「CDとレコード」、「ICタグとバーコード」、「パソコンとワープロ」に代表される“代替品”と“既存品”の市場展開のあり方について、ケーススタディを基にその戦略の定石をまとめ上げるなど、イノベーションが既存市場に与える影響について長らく研究を続けてきた。その結果、イノベーションによってもたらされる代替パターンは、以下の4つに分類できることが明らかになったという。
1つ目は、代替品と既存品を構成する機能セットがほぼ同じであり、ユーザーのニーズに結び付く新たな機能が存在しない「完全類似代替」である。音楽用CDとレコード、クオーツ時計と機械式時計などがこれに分類される。
2つ目は、代替品の機能セットが既存品と同じであり、かつ、ユーザーの新たなニーズに結びつく新機能も存在する「完全拡張代替」。パソコンとワープロ、携帯電話と固定電話に代表される。
3つ目は代替品の機能セットの一部で既存品より優位ではあるものの、ユーザーの新たなニーズに結びつく新機能は存在しない「部分類似代替」だ。輸送手段としての長距離トラックと貨物鉄道、電子レンジとガスレンジなどがこれにあてはまる。
そして4つ目が、代替品の機能セットの一部で既存品よりも優位かつ、新たなニーズに結びつく機能も備えた「部分拡張代替」。紙おむつと布おむつ、デジタルカメラとフィルムカメラにこの関係は見られる。
「こうした分類により明らかになったことは、短期間に業界地図を塗り替える破壊的なイノベーションは、実は決して多くはないということだ。つまり、すべてが代替品に置き換わることもなければ、新市場の開拓につながらないケースも少なくないのだ」(根来氏)
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