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イノベーションと正しく向き合い、収益を最大化させるには?ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

8月28日、「第10回ITmedia エグゼクティブセミナー」を開催した。同セミナーで講演した早稲田大学大学院教授の根来龍之氏によると、企業の成長を支えるイノベーションには4つの“代替パターン”があるという。

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代替パターンの特性を踏まえ、最適な事業戦略の策定を

 根来氏によると、代替品と既存品のこうした関係を把握しておくことで、企業はその特性を踏まえ、最適な事業戦略の立案につなげることが可能になるという。例えば完全類似代替では既存品が代替品にほぼ取って変わられることから、代替品の拡販に当たっては切り替えを促す戦略が基本となる。そのため、代替初期には切り替えコストを極力下げるとともに、需要の伸びに応じて供給力を確保する取り組みを欠かすことができない。一方で、部分拡張代替では、代替品への切り替えが完全に行われないものの、代替品が新機能によって徐々にユーザーを取り込む。そこで、初期には製品の改良を通じた優位なセグメントの強化を図るとともに、浸透期には特に優位なセグメントを見極め、そこに注力して買い手を獲得することが重要になるといった具合だ。

 「代替のパターンによって最適な事業戦略は大きく異なる。例えば鉄道輸送はトラック輸送などにそのシェア奪われたものの、鉄道輸送が消滅することはありえない。にも関わらず、いたずらにそのシェアを奪おうと競争戦略を取っても、まったく意味のないことなのだ」(根来氏)

 一方で、、高度な“防衛戦略”を取ることによって、既存商品の寿命を延命させ、そこで得られる利益を最大化させることも可能となる。その典型例として根来氏が挙げたのがIBMのメインフレーム事業だ。

メインフレームの“信頼性”を武器に、戦略的な投資も実施

 IBMは1964年に「システム/360」をリリースして以来、メインフレーム事業で多額の利益を得ることに成功してきた。ただし、ミニコンやワークステーション、オープンシステムといった競合の登場によって、汎用機サーバの出荷金額に占めるメインフレームの割合が下落してきたことは周知の事実であろう。

 だが、ここで注目すべきと根来氏が指摘するのが汎用機サーバ全体の市場の伸びだ。つまり、市場全体が拡大することで、売り上げが維持されているわけだ。

 加えてメインフレームは“信頼性”の面で他のシステムでは代替できない優位性を備えていると根来氏は強調。事実、企業における基幹システムなど、ミッションクリティカルなシステムには、メインフレームが今なお用いられており、その結果、メインフレームはそのシェアを維持することに成功しているのである。

 さらに、IBMではメインフレームに対し、過去の投資をいわば“刈り込む”のではなく、新たな投資も継続的に実施してきた。その結果、上位互換や下位互換を実現するとともに、アーキテクチャの連続性を保障してきた。

 しかも、もともと同社ではソリューションのすべてを自社商品で提供してきたが、新たなイノベーションに対応するために、自身の事業構造の抜本的な見直しを実施した。アプリケーションレイヤーではSAPやオラクルなど他のベンダーと協業するなど、協調戦略に転換したのもまさにそのためだ。

 「部分拡張代替のミニコンなどの登場に対して、確かに同社はソリューションビジネスに舵を切ることで差別化を図った。だが、その一方でメインフレームに対して継続的に投資を行い、その中身に手を加えつつ世代交代を実現させるなど、メインフレームそのもので高い収益を維持することに成功している。経営の舵取りを行うにあたっては、イノベーションに正しく向き合うことが必要なのはこのことからも明らか。イノベーションは決して“破壊”だけをもたらすわけではないのだ」(根来氏)

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