「ビジネスモデルの軸は収益モデルではない」 東京理科大・伊丹教授
収益モデルを重視する企業が多い中、経営学者として著名な伊丹敬之氏は、模倣されやすい収益モデルよりも、企業経営の根幹といえるビジネスシステムこそが他社との大きな差別化要因になると語る。
早稲田大学 IT戦略研究所は1月20日、企業の経営層を集めたエグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(ELForum)の「第11回 コロキアム」を開催した。基調講演に登壇した東京理科大学の伊丹敬之教授は「ビジネスモデルは収益モデルのことを指すと思い込んでいる人が多い」と、ビジネスモデルに対する誤解を指摘した。
東京理科大学の西野和美准教授の定義によれば、ビジネスモデルとは、製品やサービスを顧客に届けるまでの仕事の仕組みを指す「ビジネスシステム」と、収益を上げるためのビジネスの仕掛けを表す「収益モデル」が組み合わさったものだという。収益モデルは分かりやすく魅力的に映るため注目を集めやすいが、「情報システムや従業員のオペレーション能力といった外(顧客)から見えないビジネスシステムこそが経営において重要だ」と伊丹氏は強調する。ビジネスシステムが重要性を増した理由にはITの進歩も関係している。
他社との差別化要因に
ビジネスシステムの強化は企業に何をもたらすのか。伊丹氏は他社との差別化を実現できるとしている。収益モデルは模倣されやすいが、収益モデルを実行するビジネスシステムは企業経営の根幹ともいえる仕事の仕組み自体であるため模倣が困難なほか、ビジネスシステムの設計を考えることが企業の技術戦略に大きくかかわるからである。それを認識していないと企業の損失につながる。
例えば、NECは業績の低迷から2002年に半導体事業を切り離し、NECエレクトロニクスを設立した。ところが分社化は「ビジネスシステムを手放すことと同様」(伊丹氏)であり、技術が社外に流出し競争力の低下を招いた。NECエレクトロニクスが4年連続で赤字に陥っていることがそのインパクトを物語っている。
赤ペン先生を抱える強み
分社化だけでなく業務のアウトソーシングも、ビジネスシステムの放出と同じだ。伊丹氏は「無用なコスト削減のためにアウトソーシングを繰り返すと、企業から技術がなくなる」と説明する。例に挙げたベネッセコーポレーションは、「進研ゼミ」などの通信教育サービスで売り上げを伸ばしている。その収益を支えるビジネスシステムが「赤ペン先生」と呼ばれる答案添削スタッフだ。ベネッセの強みは赤ペン先生を社内に大勢抱えていることであって、彼らの業務をアウトソーシングしてしまうと、技術やノウハウが流出してしまうだけでなく、委託業者にとってはその仕事の重要性が理解できないため、質が著しく低下し、ビジネスの崩壊に向かうという。
「すべてがビジネスシステムの上で成り立っている。ビジネスシステムがなければ、いくら経営戦略が優れていてもうまくいかないはずだ」(伊丹氏)
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