企業は活動の過程でさまざまな局面を迎える。局面ごとに適切な判断を下す経営者には、多大な責任が求められているのは言うまでもない。
早稲田大学IT戦略研究所は3月13日、企業の経営者に向けたエグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(ELForum)「第20回 インタラクティブ・ミーティング」を開催した。早稲田大学大学院商学研究科の根来龍之教授が、しばしば経営上で見られる正当性の是非について見解を示した。
ビジネスには少なからず、正しいものと不当なものがある。根来氏は、企業のステークホルダー(利害関係者)が不当性を感じる経営を「えげつない経営」と定義する。ただし、その基準を明確にするのは難しい。根来氏は、英会話学校の「NOVA」と「デラ・クルーズ・イングリッシュ・クラブ(DCEC)」という2つのビジネスモデルを例に挙げて説明した。
NOVAが破綻した一因は、中途解約の返還金に関するトラブルだった。大ロットでレッスンのコマ数を買うように誘導しながら、中途解約した受講生にはほとんど返金しない仕組みになっていた。また、午後6時〜8時のピーク時に予約を取りにくかったため、レッスンを受けられない受講生が続出した。顧客に対し不誠実を働いたとして、社会で問題視されることとなった。
だが、それまで授業料が高額だった英会話業界において、数量割引でグループや個人のレッスンの値段を下げるなど革新的な企業でもあった。実際に不祥事が起きる直前までは順調に成長しており、ビジネスモデルに不当性を感じるものの、経営では成功を収めていたといえる。根来氏は、「えげつない企業が業界の競争を促したり、業界の常識を破り新たな市場を作り出すことがある」と強調した。
一方でDCECは、2003年3月にさいたま市で開校した英会話スクールだ。講師すべてがフィリピン女性という特徴を持つ。入会金は一律2万円とし、授業料は月払いベースで1回当たり2500円〜7000円。ボリュームディスカウントなど価格競争をせず、中途解約者には1レッスンずつの金額を再計算して返還するシステムである。PR活動はほとんど行わないほか、収益の一部を寄付金に回すなど利益を追求することはない。「(中途解約金においてはNOVAと比べ)誠実だが、成長が望めないビジネスモデル」(根来氏)という。
「違法行為に及ぶえげつなさは問題だが、産業の発展には時には必要」と語る根来氏は、えげつなさの許容範囲は経営者それぞれが持たざるを得ないという。
「えげつない経営が全面的に悪だとはいえない。その判断は社会や市場ではなく、最終的には経営者自身が行うものだ」(根来氏)
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