グローバル人材育成の現場より――求められる新たなカリスマ人材:潮目を読む(2/3 ページ)
現在のフラット化する世界において求められる人材像とは何か。国際競争力に勝つために企業はいかなる社員を育てていけば良いのだろうか。
従来のサービスプロバイダーに求められた人材要件
上述の世界や企業の変化に対し、ITサービスを提供している大手プロバイダーも人材育成の大きな転換を迫られています。従来は、企業戦略やビジネスモデル、プロセスをどうすべきかということについては、企業内の人材で考えるか、戦略策定の一部に外部コンサルタントを活用するものの、ビジネス要件の定義は、各社固有に行なっていました。また、業務については、社内でこの道何十年という人材が熟知しており、業務の網羅性や機能の完全性を確保するということについては外部の人材よりも顧客企業内部で完成度の高いものが作れました。
サービスプロバイダーは顧客企業の要件に基づいて、いかに成功裏に実現するかが最大のテーマでした。そのために各テクノロジーの専門技術者やシステム設計者(SE)は、お客様の要件を確実にシステムに置き換えるということが最も求められる能力でした。デリバリーにおいても、プロジェクトマネジャーはお客様の課題やビジネス要件を新たに作り出すのではなく、方法論を適切に活用して、与えられた要件を期日内にサービスインすることが求められました。
つまり、従来のサービスプロバイダーの人材育成とは与件の要件を正確に実現するためにシステム開発のさまざまな技術を深めることと、確実に納めるために方法論に基づいてワークロードやコストを見積もり管理する手法の教育が主として行われてきたわけです。
前述のように世界を1つのものとしてとらえてビジネスモデルをデザインし実現するとなると、従来型の人材育成ではもはや限界であることはお分かりでしょう。誰もやったことのない新しいグローバルレベルでのビジネスモデルを設計、実現する能力を持った人材にはどのような要件や育成が必要になってくるのでしょうか。
求められるのは新しいカリスマ
どのような人材かを一言で表現するならば、まさに新しいカリスマとなり得る人材が必要なのかもしれません。カリスマといっても松下幸之助さん、本田宗一郎さん、井深大さんのような創業理念や原理原則を体現する超権威主義的なカリスマではなく、グローバル経営学に裏打ちされた知識を持ち、卓越した実行能力をもつ人材です。
わたしが考える、グローバルに通用するカリスマ人材に必要な要件は3つあります。1つ目は、グローバル経営学の教育を受けていること、2つ目は、未来の企業モデルをグローバルレベルで設計できるビジョナリストの能力を備えていること、3つ目は、日本人、外国人の区別なくあらゆる人と接し、現実や現場の実態を理解し自分の言葉で語れる高いコミュニケーション能力を備えていることです。
1990年代にIBMの復活を成し遂げたルイ・ガースナーについて、わたしは自身が直接会っただけでなく、多くの人々からその功績や人となりを耳にしてきましたが、集約すると上述の3つの要件を満たしていると考えます。彼はITビジネスの専門家ではありませんでしたが、ハーバード大学で習得したMBAやマッキンゼー・アンド・カンパニーで得た経営に関する一流の知識・経験がありました。ビジョナリストとしては、ハードウェア主体のビジネスモデルから、サービス主体のビジネスモデルへのロードマップを描き、変革を成し遂げました。
変革の実行にあたっては徹底的にコミュニケーションを重視し、IBMのCEOを務めた9年間に、搭乗距離が150万キロを超えるほど世界を飛び回り、数え切れないほどの社員やお客様、ビジネスパートナーと会いました。彼は極めて明快で論理的な話をしますが、それでいて奥が深いと感じさせるのは、聞いたことの受け売りではなく、実態を深く理解し自分の言葉で語るためであり、それにより多くの人々を動かしたのだと思います。
経営者の例を挙げましたが、経営の知識、革新的なビジョンを描く能力、現場が分かっていること、これらは経営者だけが持っていればよいというものではなく、いまなお低迷する企業の再建を担う人材にとって重要な要件です。これらの要件を備える人材をどれだけ育成・維持できるかが企業の競争優位の源泉といえるでしょう。
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