大前研一の辛口ニッポン応援談(前編):世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(3/5 ページ)
大前研一氏に強い日本企業をつくる上でのヒントを聞く。中国など新興発展諸国の登場でグローバル展開が新たな局面を迎える中、日本企業は大いなる覚悟で進む必要がありそうだ。アンビション(野心、大志)の欠落が危険だと大前氏は指摘する。
企業の国際化はITインフラが鍵をにぎるのか
もともと日本企業はERPの活用が苦手だ。個別システムとしては非常にいいものを持っていても、購買と設計や生産とのリンクなどを考えると、実際にはERPの使い方が下手、ほとんど全社システムとしては使えていないのが実際だろう。ヨーロッパ戦略にしても国別にバラバラに開発してきたものを統合していかないといけないわけだが、その辺の移行がまだできていない。
カスタマー側のCRM(顧客関係管理)システムとSCM(サプライチェーンマネジメント)を1つのERPのプラットフォーム上で統合、しかも国別にやってきたものを統合してはじめてグローバルシステムができるわけだけど、この作業は普通着手してから4、5年はかかる。ところがこれをきちんとやっている企業を見たことがない。そもそもそういうことができる人材を自社内に抱えておらず、いわゆるITゼネコンに金だけ払って空中分解している企業も多い。
本来はCEOがCTO(最高技術責任者)を兼ねるくらいでないとだめだが、概ね日本企業の経営者はシステムに弱い。さらにクラウドコンピューティング時代に入って、社内のコンピュータシステム部門の人間も時代遅れになってきている。アベイラブル(available)なシステムが雲の向こうから降ってくるかもしれないというときに、後生大事に箱ものを抱えているというレガシー野郎が実に多い。
グローバルとは何かというと、基本的にはシステムといえる。だから経営トップがこのあたりを勉強して指揮できるレベルにないといけない。システムについて熟知していて、何をやるべきか、何ができるかということは分かっている、こういう状態からスタートしなければ。しかし現実は社長がEDP(Electronic Data Processing)に丸投げし、そのEDPは素人の集まりで、これまた外部にマル投げする“取り次ぎ野郎”の集団、というのが大半の日本企業の姿だろう。
例えばCisco Systemsで会長兼CEOを務めるジョン・チェンバーズ氏は、IBM出身の営業担当者だが技術についてもよく研究している。当時CIOだったエド・コゼールと一心同体でシスコのバーチャル・シングル・カンパニー(VSC)を作り上げた。このVSCは世界最強のシステムだが、設計コンセプト自体はトップが構想している。コーディングや、システムのメンテナンスなどは社外に出してもいいが、基本設計は自分でできないと。この二人は理想のコンビだった、と言っていいだろう。
このVSCはシスコ・コネクション・オンラインというWebサイトを中心に百数十の企業が協力するという、いわば「Web型」組織といえる。このコンセプトを使えば、4、5人の優秀な社員で巨大企業が運営できる。あとはアウトソーシングやシステムそのもので十分だ。機能別の組織を持つと、企画できない人材が企画部に、システムが分からない人間がシステム部に入ることになり、全事業部がガラパゴス化してしまう。実際ジュラシックパークみたいな日本企業は多いよ。
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