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自社メディアの活用で素早い情報提供を――花王、日航の事例から

ITの発展によって企業情報を消費者に対し正確かつ迅速に伝達することが企業の責務となりつつある。そこで自社メディアの活用がマーケティングに大きな効果をもたらすという。

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 目まぐるしく移り変わる現在のビジネス環境において、企業におけるマーケティングの役割はいっそう重要度を増している。とりわけITの進展は消費者への情報伝達やマーケティングのあり方に大きな変化をもたらした。企業マーケティングに詳しい一橋大学大学院 商学研究科の神岡太郎教授は「かつてのように一方通行型の情報発信ではなく、顧客とのインタラクティブな情報のやり取りが重要だ」と語る。

 そうした中、多くの企業が取り組んでいるのが自社メディアの活用である。公式Webサイトや電子メールなどをメディアにして、企業の最新動向や新製品に関する情報を顧客に提供するとともに、顧客からのフィードバックをもらい事業活動に反映する。

 自社でメディアを持つことのメリットについて「ホームページは広報力を高める」と、花王で執行役員 MK開発部門 統括を務める小柴茂氏は強調する。「例えば新聞の場合、(お詫びなどの)社告であれば出稿の翌日に掲載できるが、一般広告となると新聞社の審査などが入り3日から1週間かかってしまう。テレビの場合でもCMの差し替えには最低3日かかる。その間にビジネス状況は刻々と変化するため、速報性という点では不向きである」。一方で、自社メディアを使えばこうした課題は解決できるという。

左から、花王の小柴茂氏、日本航空インターナショナルの西畑智博氏、一橋大学大学院の神岡太郎氏
左から、花王の小柴茂氏、日本航空インターナショナルの西畑智博氏、一橋大学大学院の神岡太郎氏

 早い段階からITをマーケティング機能に取り込んだのが日本航空だ。同社は1996年に国内航空会社として初めて航空券のオンライン予約サービスを開始した。その後、航空券の電子化やインターネット割引、Web上でのマイレージ管理などいわゆる「e-ビジネス」を加速し、今やなくてはならない顧客接点として育て上げた。e-ビジネスの登場によって情報伝達の方法が大きく変化した。

24時間いつでも情報発信できる

 日航のe-ビジネス立ち上げを指揮し、現在は日本航空インターナショナルで旅客営業本部 国内営業部長を務める西畑智博氏は「以前は顧客に対して情報発信する手段がなかったが、ホームページや電子メールなどをメディアとして24時間いつでも活用できるようになった」と説明する。例えば、9.11米同時多発テロの際には、現地の状況をいち早く把握し、安否を気遣う顧客などに対して正確な情報を提供できたという。

「ITを活用すれば顧客とのOne to Oneマーケティングもすぐに実現できる。今までははがきを送ったり電話を掛けたりと、時間もコストもかかっていた」(西畑氏)

 企業では昨今、ブログやSNSなどで消費者同士が商品を評価する口コミ情報も重視している。しかし「書き込みや商品ランキングには作為的なものがあったりと、口コミを正確なマーケティング指標にするのは難しい。ITだけに頼ると大きな落とし穴にはまってしまう」と小柴氏は懸念する。西畑氏は「やはり人に直接会って話すのが基本だ。ITによるコミュニケーションとリアルな場でのコミュニケーションをいかに両立していくかが、今後のマーケティングにおいて重要である」と話す。

 現在、花王と日航はともに危機管理レベルで大きな転換を迫られている。花王は、安全性への懸念を受けて販売自粛した食用油「エコナ」関連商品によって約60億円の損失を9月中間決算で計上した。日航は、公的資金注入など政府主導による経営再建に乗り出しており、今後の事業のあり方が問われている。神岡氏は「今の世の中は乱気流のような激しい変化が常に起きている。企業は変化をとらえて対応することが肝要だ」と力を込めた。

 いかに素早く変化に対応して事業の成長を図っていけるかが、これからの企業のマーケティングに求められているのだ。


※11月11日に行われたイベント「デジタル マーケティング NEXT 2009」での講演を基に構成。

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