事業仕分けの限界:藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)
賛否両論あるがこの初めての試みには注目が集まっている。一過性のショーで終わらせないためにわたしたち国民も事業のあり方を考え続けなければならない。
基準は成果だけなのか
その意味で、自分たちの税金の使い道が自分たちの目の前で行われるという事業仕分けは新鮮だったはずだ。「ハコもの」という分かりやすいキーワードが出てくれば、それは税金の無駄だと思える。
しかし物事には両面がある。国家予算というものを、本当に国民目線で切っていいのかという問題だ。もちろん官僚目線でやればいいという話ではない。国民目線といったときの「レベル」の話なのである。よく出てくるスーパーコンピュータの話もそうだ。「1位になることにどれだけの意味があるのか」という民主党の蓮舫参議院議員の発言が何度も流されたが、こういった発想はある意味危険な発想だ。科学技術はそう簡単に目に見える成果が得られるものではない。だから企業は基礎研究にカネをかけたがらない。株主から問われたときに、説明しようにも成果がなければ説明できないからである。
基礎研究にカネをかけなければ国家が衰亡すると大学の学長が集まってアピールしたが、それはその通りなのである。そして、どの研究にどれぐらいの資金を配分するかは政治家でも決めることはできないだろう。政治家ができるのは、総額を決めることだけだ。まして個別の案件を仕分けたりすれば、場合によっては、長期的視点など失われた「公開裁判」になってしまう恐れさえある。
もともと事業仕分けには、国がこんな事業をすべきなのか、それは地方に任せればいいのではないか、という問題意識がある。地方分権あるいは地方主権とも絡んで、そういった議論は力を持ちやすい。しかし地方に事業をこなす能力があるのかどうかという問題は明らかに残されている。都道府県という自治体にしても、現場まで果たして目が行き届くのだろうかという疑問がある(私の住む横浜市のような都市は、人口が390万人近くいて、これでは本来の意味での地方自治体のレベルを大幅に上回っているのではないだろうか)。
民主党が事業仕分けを導入したのは評価できるとしても、今後これをどのようにするのか(定着させるのか、それとも今年だけのショーで終わってしまうのか)で、また将来の評価は変わってくるのかもしれない。それと同時に私たち自身が、国家予算というものをどのように考えるのか。日本の民主主義の質も改めて問われるのかもしれない。
著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜000年同誌編集長。2001年〜004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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