【第1回】日本企業とダイバーシティ・マネジメント:ダイバーシティの“今”を追う(2/3 ページ)
日本でも最近「ダイバーシティ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。しかしながら、本質を理解している日本企業はまだまだ少ないようです。何故でしょうか?
女性や障害者の活用
ここで、日本企業の人事領域におけるダイバーシティ・マネジメントの主な内容を整理してみましょう。具体的には、女性活用、障害者雇用、時短推進の3つにしぼられます。
女性活用
女性活用への取り組みには、(1)女性の積極的な採用: 女性の総合職を多く採用する企業が増加、(2)女性のキャリアパスの自由化: 一般職の女性から総合職に転換させる制度を導入し、仕事に積極的な女性により自由なキャリアパスを提供する試みを実施、(3)女性の労働環境の改善: 22時以降の就業禁止や、産休産後・育児休暇、託児所の設立(ヤクルト、日本有線などは社内に託児所を設けている)、のように家庭を持つ女性に配慮した取り組みが行われています。
障害者雇用
障害者雇用への取り組みでは、法定雇用率1.8%を超える比率のガイドラインを定め、より積極的に障害者を雇用しているケースが多く見受けられます。
時短推進
一部の企業では、社員のさまざまなワークスタイルを認め、労働時間に自由度を与えています。個人の事由に配慮した時短、裁量労働、フレックス等の制度を取り入れる企業がある一方で、時短を取り入れたものの、しばらくして廃止したキヤノンの例もあります。キヤノンでは、上司と部下のコミュニケーション機会が減少し、結局は個々人の仕事が増え全体的に非効率になったことを廃止理由として挙げています。
新しいダイバーシティ・マネジメント
欧米におけるダイバーシティ・マネジメントについては、「ダイバーシティ アンド インクルージョン」という言葉で表現されることが最近多くなっています。これは冒頭にご紹介したように、単に多様性を管理するのみでなく、それによって生み出される価値を組織全体で共有し、見える成果として企業成長の原動力に換えていこうという、よりダイナミックな概念として理解されているものです。例えば、女性活用であれば「女性を活用した結果、どれだけ会社が価値を生み出したか」を具体的な指標で示すことで、「ダイバーシティ アンド インクルージョン」を実現させています。
すでに実行されている日本企業もあります。例えば、パナソニックでは「女性を活用した結果、会社の売り上げが○○%増加するような女性視点の新製品を開発するに至った」というダイバーシティの取り組みとその効果を単に社内だけでなく社外のステークホルダーに対しても積極的に情報発信しています。そのほか、日産自動車、東京電力、帝人でも「ダイバーシティ アンド インクルージョン」を軸足とした同様の取り組みが現在進行形で行われています。
しかしながら、これは一部であり、多くの日本企業ではダイバーシティ・マネジメントの次の目標を見出せていません。ダイバーシティ・マネジメントを推進するために何が必要になるのでしょうか。
ダイバーシティ・マネジメントの取り組みを企業に定着させるためには、まず組織の多様性を計る指標と企業の経営指標との関係性を明確にする必要があります。そのためには、例えば組織内の多様性を代表する行動を定義し、その行動を定量的に補足し、その定量化した指標が経営指標にリンクする仕組みを作り上げることが必要になります。ダイバーシティに関する取組みが業績に貢献することが明確になることによって、その企業のステークホルダーはダイバーシティ・マネジメントに対する取り組みが企業の持続的・安定的な成長を約束するための重要な施策として理解できるようになるのです。
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