【第2回】内陸部で台頭する中国企業――中国市場で戦うための心構え:世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/3 ページ)
中国消費者の日本に対する意識、そして日本企業のライバルとして台頭してきている中国企業の状況について、現地での調査結果を基に明らかにしていく。
内陸部で力をつける国産企業
一方、内陸部市場で戦う日本企業にとって、中国企業がライバルとして台頭してきている。図表5は2009年上半期の中国での自動車販売台数を示しているが、6位、7位、9位に中国メーカーがランクインしている。中でも、7位のBYD(比亜迪)汽車は前年同期比で176%増と急成長している。BYD汽車は、親会社が1995年に設立された民営企業(二次電池で世界最大のBYD公司)で2003年に西安の泰川汽車を買収して自動車分野へ新規参入したメーカーである。
BYD企業グループの2008年の売上高は268億元(約3500億円)であるが、このうち86億元(約1200億円)が自動車部門の売り上げとなっている。2003年に泰川汽車を買収してから3年後の2006年に自主開発車のF3を発売、このモデルが大ヒットしたことで創設からわずか6年で2009年上期に一気にベスト10入りを果たしている。F3は内陸市場で最も成長しているAクラスと呼ばれる小型車セグメントに属しており、価格は1.6リットルで6万元台から10万元で内陸部のネクストリッチ層に手が届く絶妙な価格帯となっている。
1.6リットルクラスであれば、北京現代エラントラが8万元から12万元、一汽豊田カローラは12万元から18万元で、ネクストリッチ層にとってカローラはやや高すぎる。エラントラまでは手が届くが、やはり同じ車格で、機能も外車と遜色なく、値段は6万元からとなれば国産のF3が内陸部で大ヒットするのも納得できる。中国では2009年1月から小型車普及のため1.6リットル以下の小型車の取得税が半減されたことに加え(10%から5%へ)、農村では購入補助(「汽車下郷」)の政策が行われている。このため1.6リットル以下は乗用車販売全体の7割以上を占めており、その中でもBYD汽車のF3は2009年の最多販売車種となっている。
BYD汽車は品質よりも価格が優先される内陸部のネクストリッチ層向け市場から事業をスタートすることで成功を収めたが、ほかの国産メーカーとは異なり、当初から自社開発志向を強く打ち出していることでも知られている。深センに3000人以上の自動車分野の技術者を持つ大規模な研究開発センターを設置し、北京には北京ジープから買収したボディ金型工場を持っている。エンジン本体や電子制御システムなど未修得の技術もあるが、日本を含む世界から優れた技術者を招聘して幹部として登用し、自主開発にまい進している。
また、本業の電池技術を生かして電気自動車の開発を進めており(2009年では試作レベル)、政府向け、タクシー向けを中心として2010年には量産化の計画を持っている。
奇瑞汽車や吉利汽車など地元政府のバックアップを受ける反面、国営色の強い経営が行われている従来型の中国メーカーとは全く異なり、BYD汽車は起業家精神に溢れる新興メーカーである。ホームグラウンドである内陸部市場という存在がなければ、BYD汽車のように技術力がまだ途上にある企業は這い上がれなかったはずで、まさにBYD汽車は「内陸部経済の申し子」である。
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