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「従業員重視」なのに人材配置は非効率――「日本の常識」は本当に正しいのか(1/3 ページ)

「株主重視」と言いつつも実態は「従業員重視」。そうかと思えば組織体制は非効率的で、優秀な人材が能力を発揮し切れない。グローバルで見れば「非常識」とされる日本企業の「常識」はどのように変革すべきなのか。

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 早稲田大学IT戦略研究所は1月28日、経営層向けのセミナー「第29回 インタラクティブ・ミーティング」を開催した。「非・常識の組織を考える」と題した講演を行ったのは、早稲田大学ビジネススクール教授の相葉宏二氏。少年時代に父親の仕事の都合でシンガポールに在住した経験があり、米国のMBAスクールに2年間留学したり、外資系企業への勤務経験が多かったりなど、「やや海外にバイアスのある経歴」(相葉氏)の持ち主だ。その視点から、いわゆる「日本的経営」の問題点を指摘するのが、今回の講演の内容である。

本物の株主重視ではないから事業の採算目標が低い

「世界の常識は日本の非常識、日本の常識は世界の非常識」と語る、早稲田大学ビジネススクール教授の相葉宏二氏
「世界の常識は日本の非常識、日本の常識は世界の非常識」と語る、早稲田大学ビジネススクール教授の相葉宏二氏

 相葉氏は、日本的経営の問題の根幹として「グローバルな基準ほどには株主を重視していない」という点を挙げた。株主よりも従業員の幸福が重視されているというのである。

「株主重視をうたっている組織も増えてきたが、実態としては、いまだに『従業員の幸福』が組織の重要な目的となっているケースが多い。だがグローバルでみれば、会社は株主のもの。株主重視というのではなく株主主権。その資本の論理に従って、ガバナンスやコンプライアンス、ディスクロージャーといった取り組みが求められている」(相葉氏)

 本来の株主重視であれば、資本コストを割らない収益レベルが求められるはず。ところが日本企業では、それより低い「赤字か黒字か」、すなわち利益ベースでの判断が一般的だ。だから負けている事業があっても、なかなか勝負をやめようとしない。多くの日本企業では、利益ベースより下の「危機的な状況」と判断されるラインが事業再生に踏み切る判断点となりがちであり、かつ再生する目標としては利益ラインまでである。つまり目標が低いのだ。

 事業ごとに採算を判断したときも、赤字事業が少なく見えてしまい、なかなか「選択と集中」に取り掛からないし、実施したとしても不十分なものとなってしまう。これでは、日本企業の利益が、いつまでも改善しないのも当然だ。

 なぜ日本ではなかなか「株主主権」が実現しないのか。その背景には、メインバンクの考え方や株式の持ち合い関係、系列による継続的取引関係など、企業間の協力関係が流動的でないこと、政財官トライアングルをはじめとする社会の仕組みの固定化などがあるという。すなわち資本が流動しない社会だというわけだ。これでは資本主義がうまく機能するはずもない。

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