「従業員重視」なのに人材配置は非効率――「日本の常識」は本当に正しいのか(2/3 ページ)
「株主重視」と言いつつも実態は「従業員重視」。そうかと思えば組織体制は非効率的で、優秀な人材が能力を発揮し切れない。グローバルで見れば「非常識」とされる日本企業の「常識」はどのように変革すべきなのか。
年功序列は年齢差別、組織も非効率に
日本企業において重視されているはずの従業員。だが、日本独自の人事制度にも問題点があると相葉氏は言う。それは年功序列制度である。そもそも、同一労働同一賃金が国際的な常識であるが、年功序列では、仕事の付加価値と給与の関係が経済的合理性を欠く。年功序列はもちろん、国によっては定年制も年齢差別として違法なものとされている。
この年功序列制度は戦後につくられたものだった。実際、日本でも戦前までは身分制度的な面が強かったのである。それが戦後、民主主義や平等主義の影響を強く受け、ブルーカラー、ホワイトカラー、マネジメントといった職務内容を問わず一元的な人事制度に統合するシングルステータス化と並行して、年功序列制度が定着していった。
確かに、「平等」という理想は望ましいことだ。また年功序列制度に伴い、新卒採用および終身雇用も一般化し、従業員全員が家族であるかのような緊密な関係が構築され、団結による強い組織力を発揮することができ、これが日本の高度経済成長時代を支えてきたのも間違いないだろう。だが、この高度経済成長を前提とした人事制度が、近年の低成長時代やデフレ時代においても残っているというわけだ。今の時代にそぐわないものであり、弊害は多いと相葉氏はいう。
例えば、過去の成果をポジションで報いるなど処遇のために人材配置が行われる傾向が強く、不要なポストが作られ続けた結果、仕事をするために必要最小限の組織ではなくなっている。早期育成すべき優秀な人材が公式のマネジメントポジションに就くのが遅れてしまう。「ビジネススクールに学びに来る人たちは、有能な若手だからこそビジネススクールに通っていると思うのだが、彼らからは『上が詰まってる』と悲観的な意見も聞かれる」と相葉氏は話す。
「日本企業は年齢の高い人々が支配しており、会社の資源を自分たちの世代が食いつぶすことを、仕方ないと考えているのではないか。日本人にとってみれば、年功序列は当たり前かもしれないが、『人ありき』を意識せず効率的な組織を作るならば、どれだけスリム化できるかを考えてほしい」(相葉氏)
もはや年功序列制度は破たんしつつある。例えば、年功に応じた昇給の度合いが時代が下るにつれて低減しつつあることは、さまざまな調査から分かっている。その実態を見て、下の世代になるほど昇給への期待感も薄まっていく。しかも最近では、終身雇用も守れない企業が増えてきた。年功序列制度で賃上げを期待させるのであれば、最初の10年の不足分をいずれ引き当てなければならない。相葉氏は、「そうでなければ『マルチ商法』と同じことになってしまう」と厳しく指摘する。このような環境では、若手のモチベーションも上がるまい。
逆に、年齢が上がっていくと、給与が会社の負担となっていく。単純に成果が上がらなくても給与が上がっていくとすれば、おおむね最初の10年は支払い不足、次の10年は成果と支払いがおおむね妥当、さらに次の10年は支払いが多過ぎるといった具合になる。会計学的にいえば、これは経費の先送りに相当するだろう。そのままにしておけば、会社に負の遺産を残すばかりである。
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