「定量的な目標設定がシステム刷新成功の鍵」――大和証券・鈴木常務:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート
老朽化した情報システムの刷新を急ぐ企業は多いものの、現場のIT部門においては一筋縄ではいかない大規模プロジェクトである。大和証券のシステム再構築を指揮したCIOが成功の秘けつを語った。
アイティメディアは2月23日、CIO(最高情報責任者)やIT部門長などに向けたラウンドテーブルセミナー「ITmedia Executive Directions 2010」を開催した。基調講演には大和証券 常務取締役 業務・システム担当の鈴木孝一氏が登壇し、自社での取り組みを例にコスト削減や業務改善など基幹システム刷新によるインパクトを紹介した。システム刷新の勘所について、鈴木氏は「具体的な目標の設定、そしてユーザー部門の積極的な参画が不可欠」と強調した。
大和証券は、2003年度から大規模なシステムインフラ刷新に着手し、2007年度に一旦の完了を迎えたが、その後も本社移転やデータセンター移転に伴いシステムの整備を進めている。こうした一連のプロジェクトを統括した鈴木氏によると、刷新以前の旧システムは、利用把握されていないプログラムが肥大化していたり、紙ベースでの事務コントロールにより事務手続きとシステムが乖離していたりといった課題が山積で、いわゆる「スパゲティー状態の情報システム」であったという。そこで鈴木氏は、課題解決策として、システム全体を見直すとともに、ペーパーレス化による未利用帳票(プログラム)の削減やデータによる事務コントロールなどを図り、徹底的なシステムの削減に取り組んだ。
特に注力したのが「デジタル化」である。紙書類や電話などのデジタル化によって業務効率化を図りつつ、従来の事務コストを廉価なITコストへ置き換えたほか、デジタル統合によって最新技術の活用やIT機器の統合を可能にし、一層のコスト削減を実現した。例えば、オフィスの固定電話のIP化、郵便物のデータ伝送や郵便記録の電子化、書類のデータ保存による書庫や倉庫の封鎖、118店舗に存在するマシン室をすべてデータセンターに集中化することなどにより、従来の事務コストから年額72億円削減した。さらには仮想化技術の導入やIT機器の統合によって、年額28億円のコスト削減を見込んでいる。「さまざまな形態に分散しているとコストは落とせないが、すべて(デジタルに)集約すると大幅な削減が可能になる」と鈴木氏は考えを示した。
ユーザー部門も巻き込む
システム刷新で大幅なコスト削減を達成した大和証券だが、多くの企業で目にするように必ずしもこのようにうまくいくとは限らない。では、大和証券の成功の秘けつはどこにあるのだろうか。鈴木氏は、システム刷新において、例えば「サービス向上」といった漠然とした目標を設定するのではなく、「誤入力の件数がどれだけ減少した」など数字に置き換えられる定量的な目標を設定することが重要だと説く。加えて、受託者のIT部門だけでなく委託者の業務部門もリスクを負うユーザー参画型のプロジェクトで進めるべきだと強調する。
具体的には、ITインフラ刷新におけるコンセプトとして(1)フィッシュボーンモデル(複雑性の回避)、(2)ルールベースエンジン(ビジネス定義のエレメント)、(3)ドーナツ(時間的、空間的一貫性)のキーワードを鈴木氏は掲げた。
(1)は魚の骨のように絡まり合わずに整然と並ぶことを表し、業務フローもプログラムも体系化することを意味する。そのために必要な取り組みが(2)である。鈴木氏はシステム刷新を開始して最初の1年半はビジネスルールの抽出にとにかく時間を費やした。鈴木氏は「人によって(業務上の)定義や言葉が異なっていたため、それを統一することが急務だった」と振り返る。(3)は将来を見据えたシステム作りの重要性を示しており、本来どうあるべきかを徹底的に議論してからシステム化すべきだとしている。「従来は現状の不満解消のためのシステム化だったが、今やっている仕事のシステム化ではすぐに陳腐化してしまう」と鈴木氏は指摘する。
最後に、鈴木氏は「ITインフラ刷新を成功させるには、自信を持ってやりたいことを最短ルートで実現することを目標にし、出来ばえを最重視してユーザーの使い勝手を徹底的にこだわるべきだ。加えて、“無理”や“不可能”にこそビジネスチャンスがあるため、メンバーが一丸となり目標を100%必ずやり遂げることが肝要だ」と参加者に向けてエールを送った。
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