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トップにもの言えぬ社員――かつての軍部とよく似た会社生き残れない経営(1/2 ページ)

戦時中の日本海軍に関するドキュメンタリーを見ていて気が付いたことがある。それは、現在の企業に通じる事象があまりにも多かったことだ。

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 以前、NHKで放映された「海軍400時間の証言」を見ていたら、企業経営にとって大変示唆深い言葉があった。それは「やましき沈黙」だ。

 11年間も続いた海軍反省会で、人体を兵器にする特攻作戦の背景が明らかにされた。軍令部が密かに1年以上もかけて特攻兵器を作り続けてきたが、元参謀たちは特攻をあってはならない作戦と自覚しながらも反対意見を唱えることができなかった。正しい本音を口にして流れに反対できなかったことを、やましき沈黙と表現していたのである。

 軍令部にものが言えなかった背景には、昭和初期、軍令部総長に宮様を据えたことで軍令部が神格化したこと、大成功と喧伝された真珠湾攻撃を指揮した一派が権力を握り、実績ある連中に反論できにくかったことなどがあるほか、既に出来上がってしまった特攻計画の流れに異を唱えることが難しくなっていたこともあるという。結果的に5000人以上の兵の命を無駄にし、国の傷口をさらに広げることとなった。このやましき沈黙は、今の企業の中でも見られはしまいか。

会社を私物化するトップ

 従業員が何万人もいる大企業A社で、Bは10年間トップの座にある。10年間も居座ると周囲がトップを神格化する。本人もそう思い込む。例えば、一事業所の課長人事に反対したり、自宅の庭の手入れに通う者を優遇したり、昔からの個人的つながりを尊重したりするようで、「Bは人事を私物化している」とささやかれている。真偽はともかく、そういううわさが出ること自体が問題だが、Bの姿勢に対して誰も異を唱えない。

 A社の量産工場には作業員の発案で「folly protect」という凡ミスを防ぐ工夫が随所にあり、うっかりミスや単純不良を防ぐ手段として欠かせないものになっていた。あるとき大量の市場不良を出したC事業所が、Bから「folly protectなどやっているから検査が甘くなるのだ。すぐ止めろ」と強烈な叱責を受けた。folly protectの必要性を説明すればするほど、Bを怒らせた。なぜ大量の市場不良発生とfolly protectを因果関係で結び付けるのか誰も理解できなかった。結局、定着したfolly protectを止めるわけにもいかず、Bが視察に訪問する量産工場は、その時だけfolly protectを必死に隠した。何と馬鹿げた話だろう。

 中堅企業D社では、トップや経営陣に業績が好調な部署の出身者たちが就任することが恒例になっていた。これはどこでも見られる傾向で、企業の中で黒字部署の出身者は周囲から一目も二目も置かれる。D社はその傾向が特に強く、彼らは絶大な発言力を持つ。当事者の経営力で黒字を維持できた場合はともかく、時流に乗ってたまたま黒字の時期に居合わせた人間たちの多くは経営能力に疑問がある。D社の今のトップと経営陣は、後者に該当するわけだが、彼らは過去の成功体験に固執している。

 ある開発会議の席上、一営業課長が理容剤の容器改良を提案した。作る側の工場長は、プラスチック成形の型製作にお金が掛かるので、改良提案の根拠と、改良後にどれだけ売り上げアップを約束してくれるか、営業に執拗に問い掛けた。それがトップのご機嫌を損ねた。

 「せっかく営業が提案しているのに、理屈をこねるな。だからこの工場は赤字なんだ。営業の要求通りに作ればいい。気合だ、気合。要求どおり作れ!」と、トップが強烈な雷を落した。会議室は凍りついたように静かになった。今のD社には理詰めの議論は通らない。

 情報機器を提供するE社は、同じグループ大手のF社に吸収合併された。両社は、技術面でも販売面でも関連がなく木で竹を接いだようだった。まさか合併するとは思いもしなかった。実際、E社はグループ効率化の姿勢を示す人身御供にされたわけだ。しかし、E社は2年後に再分離された。合併は明らかに失敗だったが、合併を指示した幹部をはじめ誰も責任を問われていない。

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