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トップにもの言えぬ社員――かつての軍部とよく似た会社生き残れない経営(2/2 ページ)

戦時中の日本海軍に関するドキュメンタリーを見ていて気が付いたことがある。それは、現在の企業に通じる事象があまりにも多かったことだ。

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現場に降り立て!

 やましき沈黙を脱するにはどうすべきなのか。関係者は、やましき沈黙を破る勇気を持たなければならないだろう。しかし、沈黙を破ることは国賊扱いへの道であり、己の生命をさえ危険にさらすことになる。「勇気を持て」の一言で済むなら、多くの人々がこんなに苦労はしないし、国も企業も道を誤ることはあるまい。沈黙を守る人々を責めることは筋違いかもしれない。やましき沈黙は、沈黙した人々の自責の言葉にしか過ぎないのではないか。

 沈黙する側の人々に対してできる数少ないアドバイスは、進言する方法に工夫をしろということである。直言して玉砕するのではなく、トップの腹心にもの申すとか、トップの弱い相手、例えば顧客やコンサルタントに根回しするとか、同志を集めて数で攻勢を掛けるとか、相当な工夫と努力が必要となる。

 しかし、根本策は経営陣の側にある。いや、トップの胸三寸にある。まず、Bのように10年にも及ぶトップの長期政権はデメリットが多くメリットは僅少である。どんな優れた経営者でも、10年も経つと神格化してくる。そもそもこの変化の激しい時代に、長期政権は時代遅れもはなはだしい。内規で長期政権を廃止すべきだ。

 次に、D社のように100%実績主義に頼る人事評価は止めるべきだ。どうしても業績がよい部署を優遇したくなる。結果だけでなく、過程も十分重んずべきだ。人物で評価しなければならない。

 いずれも、トップがその気にならなければ実行できない。トップは、長期政権の“麻薬”に侵されやすい。業績に貢献した人物がかわいくなる。そこを一皮むいて大きくなるべきだ。そして、何よりも沈黙を破る雰囲気を企業風土として定着させることだ。そのためにはシステムや組織を工夫しても駄目だし、強制はもっての外である。最良の方法は、トップが現場に降り立つこと、そして現場から声を吐かせるように仕向け、それに耳を傾けることだ。そこには貴重な情報が埋もれている。A社のfolly protectの効用も、D社の工場の理屈も、E社の合併の無理さ加減も、トップが現場に出ればうめき声として耳に入るはずだ。トップの人間的魅力こそが試される。


増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら




著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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