日本のスポーツ強化に向けてやるべきこと:小松裕の「スポーツドクター奮闘記」(1/2 ページ)
オリンピック前後に限らず、従来から日本のスポーツ強化に対する議論は盛んです。しばしば「もっとスポーツ選手や施設に国家予算を投入すべきだ」という意見を耳にします。これは確かに重要ですが、ことはそう単純ではありません。
バンクーバー冬季オリンピックが幕を閉じました。日本は金メダルなしという結果に終わりましたが、銀、銅計5個のメダルを獲得し、さまざまな場面でわれわれに感動を与えてくれました。しかし、韓国は金メダル6個、メダル合計14個の大躍進。これから、「韓国と日本のオリンピックに向けた取り組みの違いは何だったのか」について検証が始まり、4年後のソチ冬季オリンピックに向けて、再びまい進していくことになります。
「オリンピックに向けた強化」というとお金をいかに掛けるかという議論になりがちですが、単に国家予算をつけるだけでは駄目でしょう。人材の発掘、選手を支える仕組み、環境や施設の整備、選手や競技をサポートする人たちの教育や養成、さらに踏み込めば、学校教育や社会の仕組みも強化につながってきます。しかし何よりも、スポーツを支えることが社会にとって大事なことであることを多くの国民に分かってもらえる努力を続けていかなければなりません。それがなければ、「なぜスポーツなんかに金を使うのか」といった話に必ずなってしまいます。
スポーツの価値はさまざまです。「夢と感動を与える」という単純なものだけではないのです。以前このコラムでも書きましたが、2016年の東京オリンピック招致の支持率が日本では高くなかったというのは、この「スポーツの価値」の認識が日本にはまだまだ足りないということの裏付けだと思います。スポーツの多様な価値を認識し、スポーツの社会的な位置付けをしっかり議論していかなければなりません。
文部科学省も、スポーツ政策の方向性を示す「スポーツ立国戦略」に向けて動き始めました。これは、昨年政経交代前に廃案になったスポーツ基本法の策定やスポーツ庁の設置などを視野に国策としてスポーツの意義や価値の再構築を目指すものです。このような行政や法的なバックアップも大切ですし、やはり、それを支える国民のスポーツに対する理解も大事です。
スポーツに専念できるドクターが必要
そうした中、わたしが取り組まなければいけないのが、スポーツ選手を支えるスタッフの養成、特に、現場に深くかかわることができる有能なスポーツドクターの育成です。実は「スポーツドクター」と一言でいっても、その範囲はとても広いのです。なぜなら、スポーツ医学自体が、トップアスリートのサポートから生活習慣病の予防のためのスポーツまで多岐にわたる学問だからです。
現在日本でスポーツドクターと名乗ることのできる医者は3万人もいます。日本体育協会公認のスポーツドクターが約5000人、日本整形外科学会認定のスポーツ医が約5000人、そして日本医師会の健康スポーツ医が2万人もいます。これらの資格は講習会への参加だけで取得できますが、いくらスポーツ医学の知識があっても、オリンピックなどの現場では、さまざまな場面に出くわします。医学的に正しいことがスポーツの現場では必ずしも正しくないこともあります。時には医学を無視しなければいけないことだってあります。これを理解するには、多くのスポーツ現場での経験が必要になります。医学以外の問題が絡んでくることも多いのです。
しかし悠長に「徐々に経験を積みなさい」ということをしていては駄目で、体系的に教育するシステムの構築が必要です。また、現在はほとんどのスポーツドクターが病院勤めなどをしながらボランティアでスポーツにかかわっています。当然、海外遠征の帯同などには制限が出てきます。大会をはじめとするスポーツの現場だけにかかわることができ、それだけで安定した収入が得られるようなポストの増設も必要でしょう。
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