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日本に勝機はあるのか――日本企業が中国市場で戦うための心構え世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(1/3 ページ)

中国の富裕層は沿岸部のみならず内陸部でも急増しており、世界中の企業がこの市場に大攻勢をかけている。欧米や韓国などの外資企業、そして着実に力をつけている中国国内企業との競争において、日本企業は勝機を見出せるのか。

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 現在の中国のネクストリッチ層向け市場は、沿岸部に加え内陸部でも急拡大しており、世界のプレイヤーたちがこの市場をめがけて大攻勢をかけている。例えば、韓国勢のサムスン電子は蘇州で、LGディスプレイは広州でいずれも2011年から2012年にかけて最新鋭の液晶パネル工場を稼働させる。中国最大手の液晶パネルメーカの京東方科技(BOE)、家電大手のTCL、龍騰光電(IVO)も2011年稼働の第8世代工場を建設中である。いずれの工場も総額で30億ドルから40億ドルの巨額投資である。日本勢もシャープが液晶パネル生産の合弁事業の計画を発表している。中国を舞台に液晶パネルの雌雄を決する戦いが始まろうとしている。

 一方で、日本企業にとっての朗報もある。野村総合研究所(NRI)の北川史和は近著「脱ガラパゴス戦略」の中で、日本企業が新興国で勝つための戦略として、(1)日本の世界観を売る、(2)価格と価値とのバランスを考える、(3)「模倣困難」な経営システムを構築する、という3点の重要性を指摘している。

日本の世界観を売る

 今回のインターネット調査においてもネクストリッチ層は日本の品質やサービスに対して好感度を持っていることが明らかとなっており、日本の企業であることそのものが差別化の要素、付加価値になるということである。筆者もこの1年ほど中国企業の関係者から日本の良さを学びたいという話をよく聞くようになっている。

 当初は日本に特別な感情を持つ関係者に限った話のようにも思っていたが、そうではなく、今の中国には日本のクオリティオブライフに憧れを持つ富裕層やネクストリッチ層が多くなってきていることが背景にあり、中国企業の今の製品やサービスでは満足ができないというユーザーが急速に増えていることが想定される。

 TOTOが自社のブランドイメージを打ち出す際に、浴室ではシャワーのみというのが一般的な中国において、香港の有名女優(ケリー・チャン)を起用し、彼女がゆったりと湯船に浸かるシーンを映し出し、日本の清潔さを大事にする入浴という文化そのものを訴求したように、自社の製品やサービスの特徴と日本の文化風習や価値観とを融合させるマーケティングも有効である。

価格と価値とのバランスを考える

 さて、今回の調査から明らかになったのは、同じネクストリッチ層でも、内陸部のネクストリッチ層は沿岸部以上に価格と機能にシビアで、売れ筋は沿岸部よりも1ランク下の価格帯となる傾向がある。つまり、内陸部市場で勝ち残るには、価格と価値のバランスをより厳しく検討しなければならず、製品機能を絞り込み、徹底した部品の現地化などによって格段のコストダウンを図る必要がある。

 部品の現地化を進めるとなると、現地に設計機能を設置し(設計開発体制の多極分散)、現地部品サプライヤーへの技術指導体制も整備する必要がある。つまり、内陸部を本格的に攻めるには新たな体制構築、投資が必要となる。成り行きで内陸部に出ていくわけにはいかない。さらなる投資に堪え得る企業体力の余裕があるか、はじめから内陸部市場に絞って進出するかなど、今一度覚悟を固めなければならない。

 富士フイルムが徹底的なEMS(電子機器受託生産サービス業者)の活用により100ドルを切る新興国専用モデルのデジタルカメラで売り上げを急拡大させているように、ビジネスモデルの組み換え、特に、調達(ソーシング)の改革に踏み込むことも有効だろう。ダイキンが中国最大手の格力電器と部品調達や金型製造分野で提携したように、低価格品に強い新興国のライバルメーカーと組む戦略も考えられる。新しいボリュームゾーンとしてのネクストリッチ層向け市場を攻めるには、自前主義から脱し、場合によってはビジネスプロセスをゼロベースで組み替える必要もある。

 EMS業界では売上高6兆円を超える世界最大の企業である鴻海精密工業が著名だが、筆者は、あと5年、10年すれば、スケールメリットを生かしてOEM生産に特化する第二、第三の鴻海が中国に出現するだろうと思っている。日本企業は台湾企業や中国企業の経営、技術に対して見下すようなときがあるが、これらの企業にはシンプルな機能を低価格で製品を作りこむ「ノウハウ」がある。このような企業はライバルではない。ダイキンがそうであるようにグローバルな新興国市場を想定してこのようなコスト競争力のある企業とのアライアンスも考えなければならない。

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