無料化するクラウドの世界、その理由と注意点:戦略コンサルタントの視点(3/3 ページ)
戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに、情報システムの新たな姿について寄稿してもらう。クラウドコンピューティングをテーマにした3回目は、クラウドにおけるユーザーへの課金について解説する。
クラウドは営業ツールか
1回目でも述べましたが、クラウドを上手く利用し、自社のシステムを再構築していく必要は大きくなっていくと考えられます。将来の企業のシステムで、クラウドを利用する割合は高くなっていくでしょう。
しかし、企業のオペレーションには、クラウドのサービスが適用しにくいものも多く存在するわけで、これらについては(システムが必要ならば)オンプレミスで構築していくことになります。簡単に言えば、企業の将来のシステムは、プライベートクラウドを含めたオンプレミスとクラウドのハイブリッドになるということです。
いま多くのシステムベンダー(ここにはクラウド専業のベンダーは含みません)が最も注力している営業テーマは、プライベートクラウドの構築です。
1970年代から80年代にかけては、企業に自社製の汎用機をいったん導入しさえすれば、安定した収益をかなりの期間享受できました。汎用機を他社製に置き換えるのはかなりの手間でもあり、非常にスイッチングコストが高いのがその理由です。システムベンダーの営業的にみればプライベートクラウドはかつての汎用機と同じような魅力をもっています。別の言い方をすれば、ロックインしやすくなるということです。
企業に入り込むための営業ツールとしてクラウドはとても有効です。プライベートクラウドの構築そして長期にわたる運用による収益を狙う場合、クラウドは「顧客での橋頭堡(きょうとうほ、河を渡って攻撃する際、その後に必要になる場所を確立するため、対岸に確保する地域のこと)の構築」と割り切ってしまい、無料でサービスを提供するという戦略をとる可能性は高いでしょう。この流れがクラウドの無料化あるいは低価格化を引っ張る可能性があります。
クラウド専業のベンダーには厳しい時代に
この流れの中で最も経営の舵取りが難しくなるのは、言うまでもなくクラウド専業ベンダーです。クラウドの利用を検討する企業では、クラウドベンダーの事業継続性の検証、つまり倒産や売却などによるサービスの停止や激変といったリスクに特に注意することが必要となります。
クラウド専業ベンダーのとるべき戦略については、別途機会を設けて考えたいと思います。
著者プロフィール:大野 隆司(おおの りゅうじ) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティングファーム、米国系総合コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。電機、建設機械、化学、総合商社、銀行など幅広い業界の大手企業において、事業戦略、オペレーション戦略、IT戦略の策定などを手掛ける。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.