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アジア市場攻略の鍵は「現地化」世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(1/3 ページ)

特集「世界で勝つ 強い日本企業のつくり方」を終えるに当たり、日本企業がアジア市場に進出する際に鍵となるキーワードとして「現地化」が見つかりました。読者アンケートなどを交えて、分析します。

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 ITmedia エンタープライズおよびエグゼクティブ編集部では2009年11月から、特集「世界で勝つ 強い日本企業のつくり方」を実施してきました。特に、中国をはじめとしたアジア諸国に焦点を当て、取材をはじめ、キーマンへのインタビュー、寄稿という形で情報を提供してきました。特集を終えるに当たり、日本企業がアジア市場に進出する際に鍵となるキーワードが見つかりました。それは「現地化」です。

 日本でいくら有名でも、製品が優れていても、現地化できなければ成功できない――これが真実であるようです。本稿では、特集を読んでいただいた読者を対象にしたアンケート調査の結果を分析し、日本企業による海外展開の成功要因を考えます。併せて、中国市場開拓をリードしたコンビニエンスストア担当者などへの取材を通じ、今後の動きを展望していきます。


急速に発展する上海。3月28日には上海を象徴するテレビ塔を対岸から見渡せる大規模な遊歩道が拡張オープンし、中国各地および海外旅行者、5月1日の上海万博の準備のために上海を訪れている関係者などでごった返した

 読者アンケートの結果から、回答者の所属する企業の業種は上位から製造業が34%、情報サービス業が28%だった。企業規模は回答者の48%が1000人以上、100〜1000人未満は30.5%、100人未満は21.5%だった。

 海外進出状況に関する質問で、「海外進出を既にしており今後拡大する」と答えた企業は30.5%、「現状維持」は20.2%。これに対して「縮小、撤退する」と答えたのは4.0%と少なかった。一方で、「海外進出の予定はない」という回答は30.9%にとどまり、日本企業の海外志向の強さを裏付けた。


海外進出状況について聞いた

 海外進出の目的および理由では、海外進出企業の68%が「海外市場の開拓」と答えている。「安価な労働力の確保」「製造/調達コストの削減」がともに36.1%で続き、33.6%が「国内市場の縮小」、20.5%が「優秀な人材の確保」を挙げた。

 実際には、海外進出先としてどのような国や地域を選んでいるのか。既に海外進出している企業の回答で圧倒的に多かったのは84.4%の中国だった。そのほか、米国が53.3%、欧州が48.4%と続く。だが、注目すべきはそれ以下の国々だ。ベトナムが42.6%、韓国が37.7%、台湾が34.4%。インドが32.8%と続く。「そのほかアジア」という回答も44.3%に上っており、現在の国際化の中心がアジアであることが明らかになった。


海外進出先として中国が圧倒的に多かった

現地パートナー企業との関係が鍵

 既に海外に進出している企業は、成功要因についてどう考えているのか。

 「海外進出で成功するために重要な要因」を聞いたところ、「現地パートナー企業との関係」が63.9%、「優秀な現地人材の確保」が63.1%だった。1位の「経済状況および経済成長の見込み」は外部環境の把握という意味で当然であると考えると、多くの企業が成功のキーワードとして「現地」を挙げていることが分かる。

 既に海外進出しており、「現地パートナー企業との関係が重要」と回答したITコンサルタントは、「コンシューマー向け製品では文化的価値観の共有が難しいため、現地パートナーとの綿密な連携が極めて重要になる」と答えてくれた。その他の主な回答を紹介したい。

  • ビジネスの成功要因は人であり、現地パートナーの力量が解決する(製造業、マーケティング担当、拡大予定)
  • 商材選択権のあるパートナーとの共同市場開拓が成功の鍵(製造業、マーケティング担当、進出維持)
  • 郷に入っては郷に従え(製造業、経営企画、拡大予定)
  • 日本企業が単独で現地に入り込むのは至難の業(製造業、経営企画、拡大予定)
  • その地域に応じたビジネスの進め方をきっちり行うことが大事(製造業、拡大予定)

優秀な現地人材をいかに確保するか

 もう1つのポイントは「優秀な現地人材の確保」だ。これについては「企業の基礎は人」という原点回帰を示唆する回答が圧倒的多数だった。「現地の事情を知り、人脈を持つ人材がいなければ、その地に合った商品を適時に開発し、市場を開発することはできない」(製造業、技術担当、拡大予定)という。

 地産地消の体制をつくりたければ、「地域で独立して経営できる必要があり、そのためにも優秀な現地人材の確保が必要」(製造業、開発/運用担当、拡大予定)との声も寄せられた。

海外ライバル企業の考え方

 ここまでの回答結果から浮かび上がったのが「現地化」というキーワードだ。

 今は一線を離れているが、コンビニエンスストア、ローソンで元中国市場開拓を担当していた落合勇氏は「中国で成功している外資系企業はトップに中国人を据えている」と話す。


上海に根付くローソン

 同氏によると、実際に、米系金融機関などは、頭取も含めて中国支社の幹部がほとんど中国人だったという。中国人同士ということで、中国国営企業の資金もその銀行に入ってくる仕組みが出来上がっていた。米国人といえば、せいぜい香港にいるくらいのものだった。

 一方、日本企業はといえば「どの企業も社長はおろか、課長も係長も日本人。何のために中国に来ているのか分からない」(落合氏)。対象顧客を中国に進出する日本企業に限定してしまったのでは「広大な市場のパイを取りに行く」という中国進出の大義名分が立たなくなってしまう。

現地化を進める

 その落合氏が中国法人を任されたのは2001年だった。同社は1996年7月に上海進出を果たしていた。

 当初ローソンは、店前通行量や商圏分析による出店計画の立案など、日本で成功したビジネスモデルを中国でも実践しようとしていた。「でも駄目だった」(同氏)。人件費は確かに10分の1だったが、上海の不動産コストは東京と変わらなかったのだ。


「中国に進出する日本企業をサポートしたい」と話す落合氏

 人口は多いものの客単価は低く、赤字になった。優秀な中国人も逃げてしまった。日本型モデルでは、意志決定のほとんどを日本の本社が下すため、中国人社員のモラールは非常に低かったという。日本から中国に出向してきた日本人社員と向き合おうとはしなかった。

 現地の中国人をメンバーの中心にできないか――落合氏は半年間にわたる検証を開始した。「日本人1人のコストで現地の人を40〜50人雇えた」。日本人を中国に派遣するとなれば、給与はもちろん、中国での住居費、定期的に日本に戻るための渡航費、海外勤務手当などを支払う必要が出てくる。現地の人を雇うことで、物流などを含めた売上原価だけでなく、販売費および一般管理費も下がるため、財務諸表の観点からも好ましい。

 翌年、13人いた日本人社員のうち10人を日本に戻し、そのコストで中国人を登用することにした。落合氏は総経理(中国では企業の最高責任者の意)に就任し、それまですべて日本の本社に委ねていた意志決定を、基本的にすべて現地で下す体制に変えた。これにより、従来、意志決定権のない日本人社員を素通りしていたような中国人社員の意識が変わり始めた。


ファミリーマートを見かけることも多い

 効果はコスト面だけではなかった。従来はボールペン1本を仕入れる際も、間に入って買い付ける中国人バイヤーが「どうせ買うのは日本人だから」といった感覚を持ち、コスト意識に乏しい買い付けになっていた。それが、中国人を中心とした構成にしてからは、中国人の従業員に「自分の会社」という意識が芽生え始めたのである。「富裕層向けならともかく、一般消費者を対象にするなら現地の人を育てるべき」(落合氏)

 先週末にかけて中国・上海を訪れてみると、上海の都市開発は想像以上のものだった。感覚としては東京23区のすべての土地に百メートル以上のマンションがひしめいているといってもおかしくないくらいの規模である。その中でも、市内ではローソンの店舗を見ることが多かった。ローソンによると「現状は300店舗」。あるタクシー運転者は「ローソンはどこにでもあるよ、サービスも良いしね」と話していた。

 中国展開に成功した代表格といえる企業も、現地化を推進していたことが分かる。

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