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【最終回】日本企業におけるダイバーシティマネジメントの典型的事例ダイバーシティの“今”を追う(2/3 ページ)

最終回の第5回では日本企業のダイバーシティマネジメントの実例についてプロジェクト事例から解説したいと思います。

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ケース2 専門職職員が多く抱える企業の組織トランスフォーメーション

 弁護士事務所や会計事務所等の多くの専門職員を抱える組織では、有資格者の数と併せて、高度なスキルや知識を持った人材の数が競争優位の源泉となります。ところが、このような組織では一般的に非常に離職率が高く、特に「売れる」人材ほど組織に固執しない傾向にあり、優秀人材の引きとめは各社共通の課題であります。一方で封建的で官僚主義的な社風は、せっかく獲得した優秀な人材がそのパフォーマンスを期待とおり発揮できないというジレンマも存在しています。

 以下は、ある専門職職員を多く抱える企業の人材マネジメントの事例です。

【ケース概要】

 A社は専門的知識を有する社員、弁護士・会計士等の資格を有する社員により構成された、アドバイザリーサービスを提供する企業であり、優秀な有資格者の確保に懸命ですが、一方で高い離職率に苦しんでいました。一見、同じ価値観を持った同質人材の集合体に見える組織であったため、どの社員に対しても同じようなマネジメントスタイルを適用していたため課題がありました。

 離職の理由はさまざまでしたが、調査の結果、社員のキャリア観や業務に対するストレス度にばらつきがあり、本ケースでは個々の社員(もしくは価値観の親和性が高いグループごと)に適応した多様性のある組織や制度設計の検討が求められました。ダイバーシティチームでは、組織診断から業績指標の設定までのプロセスを約6カ月の期間を通して行いました。

 PwCでは、以下のステップに従ってアプローチを行いました。

【ステップ1:ビジョン策定と組織診断】

多様性に関する共通意識の醸成

  • 組織内の多様性が会社の競争につながるという共通意識を醸成し、組織変革の目的と行動指針を共有しました。 

多様性の理解に向けた入念な調査

  • 事前インタビューにより、全社員が専門職であるという「一括り」としての価値観が横行し、組織に内在する多様性についての理解不足が離職の最大の原因であることが、明らかでした。客観的に事実を共有できるよう、組織内の多様性の実情と課題が細部にわたって明らかになるよう、組織診断の調査票を工夫し作成しました。

 

【ステップ2:認知した多様性の理解による組織パフォーマンスの向上施策立案】

業務に対するストレス(期待役割とキャリア観の差異)の影響分析

  • 離職の最大の理由である「キャリア実現に関する価値観」を中心に、専門職としての期待行動と本人の意識のギャップから生み出されるストレスが業務品質にどのような影響を与えるかについての分析を行い、それらを解消するための必要なインフラ・制度・仕組みを検討しました。
  • 最も重視したのは、多様性を許容する働き方の設計でした。すなわち認知した多様性を活かしながら、組織のパフォーマンスを向上させる施策、具体的には、価値観の親和性が高いグループごとに適した職場環境の整備、多様なワークスタイルを許容する人事諸制度の導入等を策定しました。

【ステップ3:個別フィードバックの実施とキャリアプランの作成】

フィードバックおよび行動計画表の作成

  • 個々人に対して面談を行い、課題を洗い出し、個々人の働き方にあったキャリアプランを作成するとともに、メンターを設定してプランの進捗管理を行いました。

【本ケースで得られた効果】

 プロジェクト終了後の社員に対する調査では、各社員の仕事に対する満足度が向上し、社内のミーティングなどにおけるコミュニケーションの効率性が改善されたことが分かりました。

 本ケースでは、専門職を多く抱える企業を取り上げていますが、大半の企業は、所属する業界・業種において専門性を有した人材を多く抱えており、上記アプローチは様々な業界・業種の企業にも適用可能である、と言えます。

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