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「どうせ社長には伝わらないよ」をなくすサトーの“社内版Twitter”(1/3 ページ)

一般的に、組織の階梯を上がれば上がるほど、得られる情報は整理・集約された網羅的なものとなっていく。しかし、それだけでは現場の生の声が届かなくなる。その課題を「わずか3行」で解決する方法とは。

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 激動のビジネス環境の中、企業は変革を続けなければ生き残れない。それは読者の皆さんも強く実感していることと思う。迅速かつ柔軟な変革のためには、トップが現場の最前線の声を直接聞いて、それを反映させた的確な施策を打っていくことが役に立つ。しかし現実問題、企業の規模が大きくなればなるほど、現場の声は届きにくくなっていく。

 数十人程度の規模であれば全員の顔と名前が一致するし、それぞれの性格や業務内容に目を光らせることも難しくないだろう。しかし数百人、数千人ともなると、現場を回りきることさえ容易ではない。人数が多くなれば、拠点数が増えたり、体制も複雑になり、物理的・組織的にも難しくなってくる。そもそも、ただでさえ経営者は忙しいのだから。

 そのため、どうしても現場全体でなく一部をサンプリングして観察したり、あるいはナマの声を諦め集約された情報に頼る、といった方法で妥協しがちだ。現場の無数の声を直接、経営トップが目にする機会を日常的に設けるには、どのようにしたらよいのか。その解決策の一つとして、注目を集めている活動がある。

3行の情報が全社規模で集約することで、さまざまな変化をもたらす

 その手法は、「三行提報」と呼ばれている。

 3行ほどの短い文章を毎出勤日に書いて提出・報告することを全社員に義務づける、というのである。文章は記名式で、いつ誰が何を書いたか明確に分かるようデータベース化され、その意見を秘書室など社長直属の部署で管理する。たった3行とはいえ、毎日数百件、数千件では一人で全部に目を通すことが難しいので、その専属部署が報告内容を集約し、数十通ほどに整理してトップが目を通す。いわば「社内版Twitter」のようなツールだ。

 この活動を最初に手掛けたのはサトー。現在は従業員1351名(連結では3613名)で、ラベルプリンタやスキャナ、磁気カードソリューション、およびサプライ製品や関連ソリューションを手掛ける業界トップクラスのメーカーだ。後には、サトー以外でも、同社の成功例を受けて三行提報に取り組む企業が現れてきた。

 サトーで1990年から社長を、2003年には代表取締役執行役員会長兼CEOを務め、2007年より取締役経営顧問の藤田東久夫氏は、三行提報を通して得られた「小さな変化」の例を、次のように紹介している。


サトー 取締役経営顧問 藤田東久夫氏

 「例えばデータ印の廃止。書類を確認した際など、部署名・名前に日付を組み合わせたスタンプを捺印するようにしていたが、『人事異動のたびにコストがかかる』という意見が三行提報にあった。当社では海外にも子会社を展開しているが、海外のビジネス現場では、イニシャルのサインを行う程度で済ませているのが通例。それなら問題なかろうと判断し、反対意見もあったが押し切ってスタンプを廃止することにした。実際、それでも特に問題は生じていない。上層部では理論で語って動かそうとするものだが、こういう変化では、理論はあとからついてくるものだと気付いた」(藤田氏)

 また、他社の例では、「作業場の上履きのひもがほどけやすい」という不満が三行提報で寄せられた。この問題、読者ならどう対策するだろうか。「正しいひもの結び方を徹底して教える」というかもしれない。しかし、その会社では考え方を変えた。ひもでなく面ファスナー(いわゆるマジックテープ)の上履きに切り替えたのである。

 「ひもの結び方を教えるのはマネジャーの考え方。しかし、いくらひもの結び方を教えても、ひもを使っている以上、ほどけるという問題はゼロにならない。ひもを廃止する方向で考えるのがリーダーだとわたしは思う。そういったリーダーシップを持つトップに、現場の不満が直通しているからこそ、こういった変化が生じる」(藤田氏)

 また、各地の拠点から無数に寄せられる三行提報を、毎日のように目を通しているからこそ気付くことができた変化もある。

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