「いくら俺が口を酸っぱくして言っても動かない部下」のココロ(2/3 ページ)
大事なことは何度でも繰り返し言って聞かせるのは当然、そうかもしれない。だが現実には、なかなか言った通りに部下が動いてくれるわけではない。その課題の背後には、企業を取り巻く環境の変化もあった。
他者との対話を通じて内省するサイクルを意図的に活用
ビジネスにおけるコミュニケーションを見直す際に、教育学の成果が参考になる。中原氏は、導管モデルの課題を乗り越えるためのキーワードとして、「他者・対話・内省」を挙げた。大人の学習では、常に他者とのつながりが存在する。その中で他者との対話を通じて気付きを得たり、自ら内省することによって気付く機会が得られるというのである。
仕事の上での経験は、その後の業務にそのまま反映される部分もあるが、いったん内省と持論化を経て、業務に役立つようになっていく部分も多い。仕事の上では、なかなか内省する時間を作るのが難しく、しばしば業務――経験の往復に終始しがちだが、むしろ内省-持論化を含めたサイクルが、経験を元に自らを変容させる。経験を、より良く業務に役立てるために大きな役割を果たすのだ。さらに、この内省の中にも、また細かな段階を踏んだプロセスがある。これらのサイクルは、ビジネスにおけるPDCAサイクルと似たような形状であり、効果の大きさも似ている。
「内省は一人でもできるが、組織の中では皆で行うこともできる。組織を変容させるには、この協同内省を実践し、みんなでサイクルをくるくる回すことが欠かせない」(中原氏)
実は昔の日本企業の中には、そんな対協同内省の機会が意図せず存在していた。遅くまで仕事をして、職場の同僚や上司と集まって仕事について語り合う経験は、ある程度以上の年代なら懐かしく思い出せるはず。それが、チームでの対話・内省の貴重な機会になっていたというのである。
「これが、年功序列、終身雇用、長時間労働の裏打ちでもあった。しかし今は“速く走る時代”。業務のスピードアップに追われて、こうした裏打ちも崩壊してしまった。チームでの対話の機会は失われている。かつてのような姿を取り戻すことは実質的に不可能であり、これからは意図的に対話の機会を設けなくてはならないのではないか」(中原氏)
協同内省の意図的な実践は、少しずつではあるが企業でも行われるようになってきた。例えばユニ・チャームでは、「決戦は金曜日」を合い言葉にした活動がある、毎週金曜日は営業活動を行わず、全担当者が販売情報や売り場陳列の成功体験を共有し合っているという。ポイントは、成功事例の結果のみを紹介するのでなく、そのプロセスまで共有し合うこと。何の障害もなく成功してしまったような例は、まず存在しない。数多くの課題をいかにして克服していったか、その過程を裏の裏まで話し合うことで、協同内省の場を設けているのだ。
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