「いくら俺が口を酸っぱくして言っても動かない部下」のココロ(3/3 ページ)
大事なことは何度でも繰り返し言って聞かせるのは当然、そうかもしれない。だが現実には、なかなか言った通りに部下が動いてくれるわけではない。その課題の背後には、企業を取り巻く環境の変化もあった。
速く走る時代だからこそ、対話と内省の機会を上手に設ける
パナソニックの活動も、詳しく研究されている。中原氏と神戸大学 大学院経営学研究科の松尾睦教授が協力した、富士ゼロックス総合教育研究所の研究成果(詳しくは関連URLを参照)から、その取り組みをみてみよう。
同社のデバイス営業本部では、同社の電子部品を電機メーカー各社に販売している。営業組織は顧客ごとに分かれ、さらにその下に対象製品・業界(PC、携帯電話、ゲーム機など)ごとのチームがある。ニーズに特化した営業を行うための組織であったが、近年ではスマートフォンなどのように融合的な製品が増え、また組織のフラット化が進んでOJTが機能しづらくなってきたことから、顧客の納得できる提案が難しい状況になっていった。
この課題を解決すべく、まずベテランが若手を教える「塾」がスタートした。ところが若手に「やらされ感」が広がり、中断。改めて職場ワークショップを実践することにした。知識の伝達ではなく、ベテランと若手との対話を通じて内省を促し、認知や行動の変革をもたらそうというのである。
「ここで工夫したのは、ワークショップを成功させるための下地作り。各人の目標共有の機会を設けたり、組織横断型の懇談会を行って社員の心理的な壁を取り除き(心理的安全)、さらに現場への権限委譲を拡大(エンパワーメント)して、社員の関わりを深めていった」(中原氏)
こうして職場内の信頼関係を培った上で、ワークショップが実践された。幾つかのワークショップがあり、それぞれ語り合う内容は異なるが、例えば「教訓」を語り合うワークショップがある。成功経験でも失敗経験でも、単に経験を語るのではなく、そこから得られた教訓を各人が語るというものだ。
「過去の経験は“時代が違う”“あの人だから”などと絶対化されてしまいがちだが、そこから対話を通じて導き出された教訓は、現在のビジネスに役立てられる。社員同士の間に信頼関係があればこそワークショップの効果が高まる」(中原氏)
社員間、そして上司と部下の間に信頼関係があるからこそ、社員の活動において精神的な支援や業務支援、内省への支援が生じやすくなる。内省を通じて互いに支え合う関係が深まり、互いの支援はより強くなっていく。内省を促すことは、各人の成長の実感に大きく寄与する。成長の実感をもたらしてくれた相手に対し、そのお返しとして内省支援を行うのは自然な流れだ。職場内の人間関係は、この相互関係を通じてさらに深まっていき、組織としても成長が期待される。こうした関係は一朝一夕にできるものでなく、パナソニックの場合は塾活動の失敗を経て、下地を作った上でワークショップを実践するという経過をたどってきた。
「今は速く走る時代。だが深く考える機会も重要だ。いかにして対話や内省の機会を持ってもらうかを説いている教育学者自身にも、その課題は返ってくる。わたし自身も対話と内省の機会を作るべく、ラーニングバーなどの活動に取り組んでいる」(中原氏)
※本稿は、早稲田大学IT戦略研究所が開催したインタラクティブ・ミーティング『伝わる組織へ:「対話すること」と「褒めること」』から、東京大学 大学総合教育研究センター 准教授 中原淳氏のセッション『職場コミュニケーションを問い直す』を元に再構成しました。
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