韓国は電子政府の世界的リーダー、進歩しない日本との大きな違い
日本における電子政府の取り組みが遅々として進まない中で、お隣韓国はランキングで世界一になるほど進歩している。その要因と日本の取り組みへのヒントを探る。
「韓国の役所の窓口に人は来ない」
こう話すのは、電子政府システム向けソフトウェアを提供する韓国のUnion & ECの東京支社長、リー・トーゲン(李東源)氏だ。
国際連合が2010年に発表した優れた電子政府のランキングで、韓国は192カ国中で1位に躍り出た。「住民申請書処理」と「政府システム利用性」については満点を獲得しており、トーゲン氏の表情も自信にあふれている。
韓国では、住民票、転入申告、納税証明など1750種類の書類をオンラインで申請し、受け取ることができる。転入時は、健康保険、年金、国税、地方税、自動車登録元帳、免許、予備軍関連、印鑑情報などを一括変更できる。利便性の高さ、住民への浸透度などどれをとっても高い完成度に仕上げている。
電子政府の普及は、それ自体の利便性の向上のみならず、国民のITリテラシーの向上や政治への参加を促すなどの副次的な効果ももたらしたという。
韓国でここまで徹底した電子政府システムを構築できた最大の理由は、大統領制によるトップダウンの意思決定だという。歴代の韓国大統領は、その権限を十分に活用し、電子政府を推進してきた。
例えば、データベースシステムなどは主にオープンソースを取り入れている。これにより、ベンダーへのロックインなどを回避し、中立性の高いシステムを維持できる。電子政府という国家的な仕組みとベンダーの利害を切り離せることの長期的な効果は大きい。
韓国の電子政府のイメージは、ただ1つのシステムを国を挙げて構築したといった感覚だ。一方、日本はどうか。日本には1800もの自治体があるといわれる。その多くが個別にシステムを構築しており、もし統一的な電子政府システムを日本でも構築しようとすれば、あるべき姿よりもまずは現状にどう取り組むかが問題になってくる。
実際問題として、自治体ごとの個別のシステム構築を手掛けるシステムインテグレーターなども多く、利害が絡むため話は単純ではない。
そうした事情をいったん棚上げしても、やはり日本での実施にはハードルがある。住民および国民全体を動かすような政治的なトップダウンの力が働きにくいことが1つ。
もう1つは、個人情報保護法を含めた法制度面の壁である。韓国では、行政機関同士で個人の情報を活用して公的文書作成にも活用している。むしろ、ある住人の情報について「他の行政機関から提供を受けられる同じ情報を、住民から収集してはいけない」と電子政府法で定めている。
「行政情報の共同利用という仕組みが、韓国で成功した最大の要因。韓国は個人情報をサービス向上のための重要なキー情報でもあるとも認識している」とトーゲン氏は話している。(編注:当初、“韓国には個人情報保護法がない”との記述をしておりましたが、トーゲン氏が明言したものではなく、事実と異なっておりました。訂正し、お詫び申し上げます)
日本では、個人情報保護法により、当初の目的以外の理由で個人情報を利用することがしにくいという事情がある。この壁を越えなければ、構築する情報システムにおいても個人情報保護法が壁となり、電子政府システムをうまく構築するのは難しくなるといえる。
もちろん、政治的な問題も法規制の問題も、解決が全く不能なものではない。仕組みの再構築をじっくり考えることで、糸口は見出せるといえる。いずれにしても、簡単な話ではない。
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