「最強の営業組織リクルート」はいかにしてネットメディアと向き合ったか(3/4 ページ)
リクルート カスタマーアクションプラットフォーム室の出木場久征室長は、情報誌市場で最強の名をほしいままにしていた営業組織の変革のプロセスにおいて中心的な役割を果たした。
「町のスーパーの戦略」で強みを引き出す
出木場氏は、まず、2004年の時点で「5年後に何が起こっているか」を全国に散らばる数百名の営業担当者に向けた説明資料を作成した。旅館やホテルから紙媒体の広告掲載料を引っ張ってくるビジネスは早晩立ちゆかなくなる。利用者がPCや携帯から予約サイトを使って直接宿泊予約をする時代がそこまで来ている。われわれは、利用者に向かってどんな国内旅行を提供したいのか。それを考える時期に来ている。
利用者に向かって、国内旅行を提供する――。これは、最強の営業組織、成功体験をふんだんに持っている営業担当者たちにとって、かなり大きな衝撃を与える考え方だった。
「それまでは、広告を出してくれる広告主の言うことが絶対という世界。しかしこれからは利用者の方を向いて、利用者に何が必要かを考えろということになった。つまりわれわれの持っていた組織としてのDNAは、広告業における圧倒的な営業力だったけれど、これからは情報を適切な形で売る、つまり小売業に近い考え方をDNAにしていく必要があるんだよ、ということになった」(出木場氏)
これは、出木場氏たちが集めた数字の分析からはっきりと見えていたことだった。
「先行企業に差をつけられっぱなしだったのですが、1つだけわれわれの方が優れている点があった。それは、リピート率が少しだけうちのほうに分があったんです。初めてネットで旅行予約をしたお客様でいえば、じゃらんユーザーのリピート率の方が高かった。つまり、われわれが先を行く競合会社に追い付き、追い越すには、リピート率での差をさらに高めていくしかない、ということが分かった」
リピート率を高めるにはどうするか。その施策の1つとして、代替サービスの適材配置が考えられた。
「15人でペンションを借り切って過ごしたい、というユーザーがいる。しかし、シーズン中だとなかなか予約が取れない。では、15人で泊まりたいというニーズを満たす代替手段を提供できるようにすることを考える。温泉宿でゆっくり過ごしたいというユーザーに、温泉はないペンションを勧めても相手にされない。要するに情報の商品配置、パッケージの内容を考えて営業在庫を管理していきましょう、ということなんです」
出木場氏はこの戦略を3つの骨子で説明した。すなわち「ネットの訪問者数を増やす。リピート率を高める。商品の最適化を図る」。するとこんな声が上がったという。「それじゃあ、町のスーパーの戦略と変わらないじゃないか」
出木場氏は次のように話す。
「確かにその通りですが、逆にそれのどこがいけないのか、ということなんです。半年前に利用してくれたユーザーの半数が次の年にも利用してくれることがユーザーの調査データで分かっている。つまり、このビジネスはお金を生み出す財産であるユーザーが、雪国の根雪のように毎年積もっていくという特徴を持っていたのです」
出木場氏は、トップに掛け合い、当時決められていた翌年度の黒字化という目標を改め、派手な広告を立て続けに打って潜在需要を盛り上げる長期的な戦略に変更した。ネットで旅行の予約をしたことがない人が広告を見て、「じゃらん」を利用してくれれば、自然と毎年の利用者が増加し続ける。リピート率を高めるサイト作りに集中すれば、先行企業との差は必ず埋まるし、黒字化の目標も自然と達成できるはずだ。
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