「最強の営業組織リクルート」はいかにしてネットメディアと向き合ったか(4/4 ページ)
リクルート カスタマーアクションプラットフォーム室の出木場久征室長は、情報誌市場で最強の名をほしいままにしていた営業組織の変革のプロセスにおいて中心的な役割を果たした。
シェアードビジョン――内部から変われる遺伝子の正体
この作戦は見事に的中し、「じゃらん」は国内旅行サイトでナンバーワンの地位を占めるに至った。そこにたどり着くまでには価値観の掛け替え作業が続いたという。
サイトを運営していた当初はトップページの目立つ場所にバナー広告を掲載していた。しかし出木場氏は、そのバナーの代わりに、ログインしてきた会員にパーソナライズ化したお勧めテキストを表示するようにした。会員ナンバーから過去の利用履歴をチェックし、ユーザーに意識させず、お勧めの宿泊プランをさりげなく提案する仕組みをつくり込んだのだ。
「バナースペースをなくすということは相当に抵抗がありました。しかし、お勧めテキストによる売り上げアップ効果は、すぐにバナーの売り上げを超えていきました。宿泊予約1本で勝負してナンバーワンのサイトになる。ほかのことで売り上げが立つ可能性があってもぶれない、という方針を貫きました」(出木場氏)
出木場氏とそのスタッフたち、そして営業担当者たちは、見事に過去の成功体験の呪縛を克服し、新しいビジネスモデルを進めることで勝者の地位を獲得した。出木場氏は内部から変化を起こすことができた要因を次のように語る。
「現在、『じゃらん』の営業スタッフは売り上げ目標管理ではなく、行動マネジメントの体制を取っている。それは何よりも、ユーザーに納得してもらえる代替商品も含めたパッケージ作りが重要だからです。バラバラに行動していたのでは、リピート率の高いサイトは作れない。しかし、ここに至るまでは本当に厳しいせめぎ合いが営業担当者やそのほかのスタッフともありました。小難しい戦略をいくら説明したところで、誰も聞いてくれません。ビジョンだけを上から与えても何も変わらない。ビジョンを共有した後、どんなアクションが必要なのか、それはなぜ必要なのかを説明するのです」
シェアードビジョン。出木場氏は自分たちのこれまでの取り組みを総称してそんな表現をした。ボトムアップでビジョンを作るということだ。そのビジョンをビジネス化し利益を上げていくことは、たやすいことではない。しかし、それを内部から発想し、思考のスタイルを変えながら実現できる組織は強い。
リクルートのDNAは確かに「強い営業」ということには変わりはない。しかしそれが表のDNAだとすれば、ビジョンをボトムアップで作り上げる力というのは裏のDNAとも呼べる。表裏が一体となったリクルートのDNA。世界中の企業のトップが血眼になって求めているものだろう。
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