マーク・ハードの場合:伴大作「フクロウのまなざし」(1/4 ページ)
この夏に注目すべき事件が起きた。今後のICT業界の方向性を決める重要な要素を含んでいるのでちょっと書いておこう。
今年の夏は暑かった。7月の中旬から暑さで全く頭が回らない状況が続き、「木漏れ日」の執筆もついつい億劫になってしまった。読者にはお詫びしたい。
ところで、最近僕が執筆を躊躇していたことには、もう1つ理由がある。注目すべき事件が起きていたのだ。今では旧聞に属する話になってしまったかもしれないが、この事件は今後のICT業界の方向性を決める重要な要素を含んでいるのでちょっと書いておこう。
HPのCEOマーク・ハード退任と間髪を入れないOracleへの移籍だ。この動向がある程度見えてくるまでうかつに書けない事情があった。
マーク・ハードが優秀な経営者であるということに関し、疑義を挟む人は少ないだろう。カーリー・フィオリーナ女史が創業家を敵に回して大立ち回りを演じ、退職した後、CEOに起用された。フィオリーナ女史の時代、Compaq、DEC、Tandemなどの大企業を次々と買収し、一時は混乱の極地にあった同社だが、同氏はたちまち、コンピュータ事業を整理統合し、どの会社も成し遂げなった売上高でIBMを上回る企業にした偉業は高く評価されていい。
HPの言い分
今年に入り、HPが契約しているコンサルティング会社のスタッフとマーク・ハード氏との「不適切な関係」が世間の注目を浴びるようになった。コンサルティング会社側からの申し立てで明らかになったのだが、それ以前にうわさ話として広まっていた。
HPの取締役会は事実関係の究明を進めていたが、マーク・ハード氏は8月6日、取締役会に正式に辞任を申し出た。HP取締役会はハード氏のこの申し立てに対し、同氏の辞職を会社都合として、同社の退職金規定により、2年分の報酬とボーナス相当額、及び在職中のストックオプションの現金化と退職に際し、新たなストックオプションの付与などの供与を決定した。ハード氏側は、これらの条件を受け入れ、「HPの利益となる一般的な請求権の放棄」という書類にサインしたとされている。
さて、この「請求権の放棄という書類」だが、一般には在職中のさまざまな決定により、氏側が訴訟を受けた場合、会社側が訴訟費用を負担する、逆に会社側が訴訟を起こされた場合、氏側は免責となるとか、これらさまざまな恩典を与える代わりに、ライバル企業あるいはHPが展開する事業分野でのコンサルティング・ビジネスに一定期間携わらないという覚書をいう。
ICT企業の幹部に在籍した社員はこのような書類にサインをするのは一般的で、今回のハード氏の場合、特例という訳でもない。ただし、東部の企業の場合、ライバル企業やコンサルティング企業への就職は厳しく制限されているが、西部の企業は厳密に守られているとは言い難く、実際、過去にHPの幹部が退職後、同業種に就職した例も数多い。
マーク・ハード氏の場合、社長だった事に加え、移籍先がSUNを買収したOracleだという点が最大の問題であるのは明らかで、HPが猛反発した事情は理解できる。
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