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円高でも負けない企業に伴大作「フクロウの眼差し」(1/3 ページ)

現在進行中の円高は95年のそれと現象面では似ているが、当時と現在とでは大きく違う。まず、世界の経済事情が明らかに異なっている。

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 ここに来てやや円安に振れているものの、現在の円高は深刻な水準だ。この円高、実に1995年以来の高値だ。だが、現在進行中の円高は1995年のそれと現象面では似ているが、当時と現在とでは大きく違う。まず、世界の経済事情が明らかに異なっている。

 当時はロシアの金融危機が引き金になり、開発途上国への投資が一斉に引き上げられ、多くの国がデフォルト(債務不履行)に陥った。ある意味、限定的な現象に過ぎなかった。しかし、今回は米ドルが世界のどの通貨に対しても安い。BRICsを代表に経済が好調な開発途上国、資源に恵まれたオーストラリア、それほど好況ともいえないユーロに対しても全面安に陥っている。

 当然ながら、ドル安は巨大な米国市場に大きな影響を及ぼす。しかも、米国市場は世界中の貿易の中で大きな地位を占めているので、製品輸出に頼っているドイツ、日本は大きな影響を受ける。逆にいうなら、ドルに連動して下落している韓国のウォンや中国の元は相対的に有利な立場を維持している。

 今回のフクロウの眼差しではこの問題に焦点を当て、企業が円高にどのようの対処するのが良いのかを探る。

ドルの価値は長期的に下落

 僕の少年時代、というと半世紀近く前になるが、1ドルは360円、当時はまだ影響力を持っていた英国のポンドは1000円だった。この2つの通貨が基軸通貨と呼ばれていた。

 ただし、当時英国は既に「英国病」と呼ばれるほど、経済的な影響力を失っていた。それに対し、米国は当時、世界最大の軍事力、経済力、金準備高は背景に世界の基軸通貨として堂々たる地位を保っていた。

 それから半世紀が経ち、21世紀を迎え、世界は大きく変わった。まず、1989年12月2日から3日にかけて、地中海のマルタ沖に停泊するソ連客船マクシム・ゴーリキー内で米国大統領 ジョージ・H・W・ブッシュとソビエト連邦最高会議幹部会議長兼ソビエト共産党書記長 ミハイル・ゴルバチョフによる首脳会談(通称マルタ会談)行われ、会議の終了後、第二次世界大戦末期のヤルタ会談に始まった米ソ冷戦の終結を宣言した。

 これは前月にベルリンの壁崩壊(東欧革命)を受けてのものだが、政治的な東西の対立が終わったばかりか、経済的にもそれまで、ほとんど交流がなかった共産主義国と資本主義国が1つの経済圏として統一されたことを意味した。

 その後、ロシアは世界有数の産油国、最大の天然ガス、小麦を始めとする農産物や天然資源の一大輸出国として、中国は世界の工場として発展を遂げることとなった。

 しかし、一見冷戦に勝利したように見える米国だが、深刻な貿易赤字を抱えているにもかかわらず無秩序に大量に発行されたドル通貨により、世界的な通貨の過剰流動性を招き、前記した新興国へのデフォルトが原因で、1995年4月、瞬間的にドルは戦後最安値、1ドル80円割れまで暴落した。

経済力だけではない、ドルの価値

 本来なら、その時点で、ドルは本来あるべき価値(恐らく1ドル50円程度の水準)にとどまるべきだったのだが、再び価値を1ドル120円の水準まで回復した。これが、今回のドル下落の真相だ。当時と違うのは第一にユーロの存在だ。確かに欧州内で経済格差が存在し、政治的にも統一されていない通貨に真の価値を見出すのは困難だが、15年前と比べると欧州と米国の制度格差は相当縮小している。

 では、なぜドルは再び価値を取り戻したのだろうか。これには、ドルが基軸通貨としてモノの価値の物差しを果たしていたためであり、また、お金を運用する場所がニューヨークやシカゴの取引所に限られていることや数多くの熟練したディーラーの存在抜きで語ることができない。つまり、世界中に有り余った資金は確かに所有権はその国に所属しているものの、実際の運用は米国でなされ、世界に再配分されていたのだ。この構造を変えるのは簡単ではなかったし、これからもそうだ。

 もう一つ、ドルが価値を決定的に落とさない理由がある。米国の自由体制への憧れだ。リーマン・ショックやイラク・アフガンに対する外交上の失敗で随分色褪せたものの、言論や経済の自由に対する政策に関し、ブレは微塵もない。旧共産圏諸国や開発途上国で頻繁に起こる理不尽な身柄の拘束や財産の没収は米国では起きない。世界で最も専制的な国である中国の中枢部にいる高官の子弟はこぞって米国への留学を目指している。「太子党」などはこの典型だ。従って、世界中の金持ちはある一定の資産を米国に蓄えておくのは常識だ。これがドルの強みを支えるもう1つの要因だ。

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