わたしの住んでいる7階建アパートの6階(日本の7階に相当)バルコニーから見える、まばゆいばかりに輝く太陽と青い海のコントラストはとても美しい。眼下の海岸通り沿いには、立派なナツメ椰子の並木が続いている。薄暮から早朝にかけて、緩やかなS字カーブのシーサイドロードはグリーンにライトアップされ、南国のような夜景を演出している。エーゲ海から吹き寄せる海風はとてもさわやかで心地良い。
イズミルで暮らしてみると
ここは、トルコ西海岸のエーゲ海に面したトルコ第3の都市イズミルである。わたしは、2010年2月からイズミルにあるイズミル経済大学の教授として赴任している。イズミルには3つの国立大学、4つの私立大学と合わせて7つの大学がある。イズミル経済大学は、2001年設立の新設大学であるが、全科目を英語で開講し、ニューヨーク市立大学とのダブルディグリーや、欧州の大学連合との単位互換制度を導入しており、国際交流が盛んな大学である。
昨年、国際公募に応募したところ運よく採用が決まり、日本の大学を2年間休職して、イズミルに来ることになった。海外で教える機会を探すのに際し、自分の中で3つの条件を立てていた。
1つは、これまでやってきたことが現地学生の教育に役立つようなポジションであること。2つ目は、これまで行ったことがない国で、自分の専門分野である異文化マネジメントの研究に役立ちそうな場所であること。3番目は、同行する家族のことも考えて、気候、治安や子供の教育などの環境面がよいことである。はじめからトルコを想定していた訳ではないが、親日国と言われるトルコ人学生に自分の専門分野を教えること、アジアと欧州の要衝に位置する興味深い研究フィールドであること、そして地中海性気候で生活面のインフラも整っているイズミルを条件の土地と決めた。
イズミルでの生活は、これまで、生活の拠点としてきた東京とは気候、ランドスケープ、食事、人々の行動様式や余暇の過ごし方が大きく異なる。ここにいると、これまでの、そしてこれからの働き方やQOL (生活の質)について考えさせられる機会が少なくない。1年前にはとても想像できなかったライフスタイルの変化である。
5回にわたり、日本ではあまり知られていない、エーゲ海の温暖な気候と遺跡に囲まれたイズミルという土地について、紹介していきたい。そこから見えてくる、イズミルにあって日本にはないもの、また、再認識される日本の大切なものについて考えてみたい。
今回は、まず、イズミルの特徴を簡単に概観することにしよう。次回以降、食文化から見える歴史的背景、トルコ人気質と行動様式、住環境と生活の質、最後に、イズミル生活を通して考えたこれからの日本人にとってのワークライフバランスやQOLについてまとめたいと思う。なお、掲載の写真は、現地でお世話になっている友人であるMehmet DULGER氏に提供をお願いし、協力いただいた。
その地勢的な優位性から、イズミルは、欧州、中東、アジアとの国際貿易港として発展し、先進国の投資家たちを引きつけてきた長い歴史をもつ都市である。イスタンブールに次ぐ第2の港湾施設をもち、2つの経済特区を中心に1200社の外資系企業の事業所が所在している。第一次世界大戦前までは、英国、フランス、ドイツ、ギリシャからの移住者が多いコスモポリタンシティーであったという。
現在でも、イズミルには、ギリシャ系、ユダヤ系、バルカン半島からの移住者が多い地区がある。また、NATO司令部があることから、多くの欧米人が住んでいることもトルコにおけるイズミルの特徴の1つであろう。こうした背景から、イズミルの街の中心地であるアルサンジャックや波止場沿いのコルドン広場にはおしゃれなカフェが立ち並び、さながら南欧の雰囲気が漂っている。
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