チリ鉱山落盤事故とドラッカーと働きがい:生き残れない経営(2/3 ページ)
チリ鉱山落盤事故の被害者33人全員が無事救出されたが、その救出劇の背景の一つにドラッカーの愛読者であったリーダーの存在があった。
「(強い)働きがい」を感じないビジネスマンが多い中で、彼らは「働きがい」をどう考えているのか(第3表、同上「プレジデント」調査より)。
働く動機で、「給料」が半数を超える。一方、別の質問で「仕事を通じての成長感」を感じる者は30%強、「2年前と比較して、日々仕事上で感じる達成感」が増加していると感じる者が20%弱と、日頃の成長感や達成感が余り強くない。その半面、「誇りの持てる仕事をしていきたい」と感じる者が70%強もいる。「働く動機」と「働きがい」は、別とも言える。
第1表と同じ調査で、興味深い結果も出ている。「これまでの仕事で、満足感を感じたとき」と「嫌になった状況」の要因を比較すると、満足感を持った要因は比較的高度な内容で、嫌になったときの要因は現実的内容であり、高度な志を持っていても、それが感じられないときに現実の打算に目がいくということが言える(第4表)。
以上を併せて考えたとき、働きがいを喪失し迷走しながら、給料に働く動機を求め、かと言って偉くなることを求めない従業員に、働きがいを見出させ、彼らの「企業生活や人生に充実感を持たせる」のは、企業の重要な任務であるといえる。それはある意味、ドラッカーが主張する企業内人間を「生産的に仕向ける」ことより、重要なことかもしれない。
それを裏付けるように、ドラッカーは著書『マネジメント』(ダイヤモンド社)で一人一人の存在の重要性を説く。
「仕事を仕事の論理に従って編成することは、第一の段階にすぎない。第二のはるかに難しい段階が、仕事を人に合わせることである。人の力学は仕事の論理とは著しく異なる。人に成果を上げさせるには、一人一人の人を、それぞれに生理的、心理的な特質、能力、限界をもち、独特の行動様式をもつ生きた存在としてとらえなければならない」
「機械工であれ、執行副社長であれ、人が満足しうるのは仕事で成果を上げさせることによって」である。
前掲の中堅企業経営者が「役割とやる気は、われわれ企業にとって当たり前」というが、当たり前に行われていることは従業員に単に職務を割り当てていることにすぎない。それを遂行するための短・中・長期の“役割”を従業員それぞれに改めて与え、あるいは自ら決めさせ、その達成を評価して「やる気」を引き出さなければならないのだ。それが、「客に喜ばれる」「達成感」「成長感」「責任」などという「働きがい」につながるのだ。
「働きがいの源泉は多様なだけではなく、常に変化するものだということを前提に、時間軸や状況に応じた多様性のある働きがいを提供できることが企業にとって大切」(『プレジデント』2010.5.3.)なのだから、役割も固定的で不変なものではない。
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