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「いい人」は悪評とともにヘッドハンターの視点(1/2 ページ)

近年の劇的なビジネス環境の変化に対応すべく、現在多くの企業は大規模な改革の真っ最中です。改革の最大の壁は過去の成功体験です。

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 「弊社で最も大切なのは“人”です」と言いながら、ヘッドハンターとのミーティングや候補者とのインタビューに時間を割かない社長がいます。「最も大切」なことに時間を使わないで一体何に時間使っているのですか?と、突っ込みたくなります。

 エージェント契約には購買部門、採用プロセス及び候補者との交渉全般は人事部門任せ、社長はインタビューに1度だけ顔を出すというのではいい人は口説けません。

 そもそも契約型エージェント(参考)が紹介する方(候補者)はその時点では転職への興味が高くない人も多く、自分から積極的に興味を持って手を挙げる「応募者」とは違うのです。

 候補者が転職を決めた時「熱心に社長が口説いてくれたから」「忙しい中、社長が納得いくまで時間を使ってくれたから」と口にする人がたくさんいます。最後の最後は「お金」でも「権限」でもなく「人」で決めている人も多いのです(このことに関しては別の機会にさらに詳しく書くことにします。)。

 ただ、各部署はそれぞれの達成目標(KPI)があるので、当然ながらそれに沿った仕事をします。

 多くの企業の購買部門はいかに契約コストを下げるかがKPIになっています。そのために既にエージェントが社長と合意した契約内容にも再度細かいチェックが入ります。

 契約型エージェントは既に契約しているクライアントにフェアであるために、契約が成立してからでないと本格的な活動は始めません。

 社長から依頼され引き受けることを決めた(参考)際には、具体的にニーズにマッチしそうな人を数人思い浮かべています。またある程度の勝算(それらの候補者が多少なりとも興味を持ってくれる)も持っています。ところが、既に社長と合意した条件の細かい部分の変更に何週間もかけていると動きの速いIT業界では状況がどんどん変化してしまいます。コンサルティング料が10万円安くなったとして、それは本当に企業にとってメリットがあることなのでしょうか?

 一般的にヘッドハンターの報酬は、依頼されたポジションの初年度想定年収を基に計算されます。ただし、複数の案件を同時に依頼された、既に海外で強いパートナーシップができている、今後長期的なおつきあいが期待されるなどの状況では、特別な条件を提案するケースもあり得るのでビジネスとしての交渉はする価値があります。

 以前ある企業の購買部長から延々と単なる値引き依頼があり「申し訳ありませんが、現在の状況ではこれ以上の値引きには応じられません」とお伝えしたところ「わたしども(客)の言うことを聞けないということですか?」とメールで返事を頂きました。“(客)”には思わず笑ってしまいましたが、これでは交渉になりません。

 この件は結局、とっくにプロジェクトが開始されていると思っていた社長から「そろそろ候補者に会えるかな」と電話があり、「まだ契約ができていません」とお伝えしたところ、その日のうちに数週間前に社長と合意した条件で契約されたという結末でした。真面目に職務を全うしようとしたのに「木を見て森を見ず」の“仕組み”が関係者全員のデメリットになったのです。

 人事部門でも似たようなことが起こります。契約したヘッドハンターに何人候補者を紹介させたか、どのくらいの頻度で状況報告レポートを出させたかなどがKPIになっているケースも増えてきました。極端なことを言えば、クライアントのニーズにマッチしない人を100人紹介した方が、ニーズにぴったりの人を1人紹介するよりもいいヘッドハンターということになります。

 実際に、あるエージェントがクライアントに送った長い状況報告レポートには、10人の部下を持つサービス部門のポジションに1000人以上社員のいる外資系ITコンサルティング会社の社長が候補者としてリストされていました。別のケースではAccount Manager(営業担当)のポジションにAccounting Manager(経理部長)が複数含まれているリストがありました。人事の方々もこれがいかに無意味で、不必要に自分たちの仕事を増やしているか分かっています。本来の目的のためにも、またヘッドハンティング業界の品質向上のためにもこういったKPIは見直してほしいものです。

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