「いい人」は悪評とともに:ヘッドハンターの視点(2/2 ページ)
近年の劇的なビジネス環境の変化に対応すべく、現在多くの企業は大規模な改革の真っ最中です。改革の最大の壁は過去の成功体験です。
また、人事部門の中には「問題を起こさない穏やかで従順な人(Peace Keeper)」を選びたがる人もいます。人事の立場からそのお気持ちはよくわかりますが、強いリーダーといわれる人たちの多くは、もちろんいい評判もありますが、強いが故に悪い評判もあります。IT業界では悪い評判が全く出てこない人は「(どうでも)いい人」と思われている場合が多いです(約15年間ヘッドハンター経験で、誰からも悪く言われていない強いリーダーはたった1人でした)。
また、当然ながら評判は断片ではなく、できるだけその事実関係を理解する必要があります。
ある企業のSEマネジャー(Aさん)が営業部門のリーダー(Bさん)を非常に悪く言っていたので、同じ会社の複数の方にお話を聞いてみました。Bさんが担当するお客様で週末に稼働中のシステムにトラブルが発生し、お客様はAさんとBさんに連絡したそうです。Bさんはすぐにお客様に会いに行って対応しましたが、Aさんは、週明けの対応でも大きな問題にはならないと判断し、自分の時間を優先しました。月曜日になってAさんはBさんから呼び出されおしかりを受け、それを理不尽に感じ、以来二人の関係が悪化したそうです。見方によって絶対的にどちらが正しく、どちらが間違っているとは言い難い話です。ただわたしがお話を聞いた人たちは「Bさんは時々やりすぎのことはあるけれど、常にお客様を第一に考え、人にも厳しいけれど自分にはもっと厳しい人です」と好意的でした。
この事実も踏まえて、わたしはBさんを大胆な顧客重視型の営業改革を実施していたIT企業(C社)にご紹介しましたが、人事役員は上記の話を聞いてBさんの採用を見送ろうとしました。ほかの部署とコンフリクトを起こす可能性のある人は採用したくなかったのです。できるだけ人事的なリスクを回避するという役割から考えると、必ずしも間違った対応ではないかもしれませんが、リスクゼロの改革などあり得ません。
結局社長、ほかの役員の後押しがありBさんはC社に転職しました。入社が決まった後はBさんの弱点も把握した人事担当者の適切なサポートもあり、Bさんは周りの期待以上の大活躍をされています。
近年の劇的なビジネス環境の変化に対応すべく、現在多くの企業は大規模な改革の真っ最中です。改革の最大の壁は過去の成功体験です。問題を解決しPeace Makeするためには、まず現状をぶち壊す必要があります。PeaceをKeepする“いい人”では変革は起こせないと思いませんか。
著者プロフィール
岩本香織(いわもと かおり)
G&S Global Advisors Inc. 副社長
USの大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)入社。
東京事務所初の女性マネージャー。米国ならびにフィリピンでの駐在を含む8年間に、大手日系・外資系企業のビジネス/ITコンサルティングプロジェクトを担当。 1994年コーン・フェリー(KFI)入社、1998年外資系ソフトウェアベンダーを経て、1999年KFI復帰、テクノロジーチーム日本代表。2002年〜2006年テクノロジーチームAsia/Pacific代表兼務。2010年8月KFI退職。2010年9月より現職。
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