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食文化にみるダイバーシティエーゲ海から風のたより(2/2 ページ)

かつて世界の中心だったトルコは、支配するだけではなく、外国人の登用、言語、宗教の自由など国家戦略としてダイバーシティ・マネジメントを実践していた。グローバル人材育成が課題といわれている日本が学ぶべきことは多いのでは。

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食文化から見たトルコ

 年間の太陽照射日数300日と肥沃な大地からもたらされる新鮮な農産物、豊富な農作物の恩恵を受けて育った家畜、エーゲ海からの恵みである魚介類はイズミルに住んでいる人々の生活を豊かなものにしている。食は、人の営みの基盤であり、豊かな食文化は国家の本質に通じている。

 トルコはかつて世界の中心であり、イスタンブールは、ヨーロッパとアジアの要衝として、幾つもの国家の首都として君臨してきた。今年、トルコ航空の機体入口付近に、”Istanbul 2010 European Capital of Culture”という ロゴマークが貼付されている。これは、2010年の欧州文化都市に指定されたことを意味している。かつてのビザンチン帝国、オスマントルコ帝国の首都として、名実ともに欧州における文化的中心としての役割が感じられる。

 広大かつ強大な歴史上の帝国は、当時、傘下にあった地域の食文化にも影響を与え、一方、各国の料理も中央に伝えられたことは想像に難くない。ヨーロッパ的なもの、アジア的なものが混在して独自のスタイルを形成している。それがダイバーシティ(多様性)の高いトルコ料理を生み出したルーツといえるだろう。

 実は、このダイバーシティは、トルコの食文化のみならず、人材、言語、技術、経済分野におよんでいた。かつてオスマントルコ帝国では、外国人を政府の要職に登用し、技術や教育に生かし、傘下地域では複数の言語や宗教の自由を認め、経済活動においても一定の独自性を与える、今でいうところのダイバーシティ・マネジメントを国家戦略の基軸に採用していたそうである。今日でもトルコの人々の柔軟な発想や臨機応変な行動様式の根底に、こうした歴史の流れが受け継がれているのかも知れない。

 この点は、今後、ますます優秀な国際人材を必要としている日本企業にも参考になるのではないだろうか。日本的な価値観や枠組みに合う人材だけを取り込んでいたのでは、組織内の調和は守れるかもしれないが、国際社会における変化への対応力、交渉力、語学力の面で、既存のハードルを乗り越えることは難しいように思われる。むしろ、組織としての共通目標の達成に向けて、適切な能力をもつ人材を国内外から幅広く求め、一定範囲の自律性を与え、かれらの能力を最大限に引き出すような国際人事戦略が必要である。

 日本は歴史上、海外の優れた技術や方法論を上手に取り入れ、独自のシステムとして発展させてきた経験知がある。国際人材活用の面でも、各国の優秀な人材を登用し、グローバル化社会における日本という国のアイデンティティを示すことができるのではないだろうか。そのためには、個の多様な発想や価値観を認め、その統合を図るようなダイバーシティ・マネジメントの存在が重要になるといえる。

著者プロフィール

永井 裕久(ながい ひろひさ)

筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授(海外研修休業中)、イズミル経済大学大学院経営科学研究科教授。専門は、組織行動学、人材開発。現在、イズミル経済大学においてMBA講義科目(Dynamics of Organization, Leadership Seminar, Organizational Behavior)を担当する傍ら、アジアと欧州の研究者と連携して、グローバルリーダーシップ・コンピテンシーのメタ認知学習に関する国際比較プロジェクトを進めている。編著書に、『女性プロフェッショナルたちから学ぶキャリア形成』ナカニシヤ出版(2009),『パフォーマンスを生み出すグローバルリーダーの条件』白桃書房 (2005)他、共著書、学術論文多数。


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