オフショアBPOから見える、クロスボーダーなビジネス:女流コンサルタント、アジアを歩く(2/4 ページ)
本稿では、改めて、日本企業のアジア新興国進出パターンを整理した上で、オフショアBPOが持つ将来的な可能性について検討する。
オフショアBPOのパターン
アジア新興国進出における、主だった3つのパターンをオフショアBPOに当てはめて整理すると、以下のようになる。
(1)日本市場向けのサービス拠点としてアジア新興国でのオフショアBPOを実施(日本市場志向型オフショアBPO)
前回の記事において紹介した、タイ・バンコクにおけるBPOセンター(Delivery Thai Co.Ltd)の事例は、このパターンに当てはまる。このパターンは、いわゆる英語圏の国々では数多く見られ、世界のさまざまな新興国にサービス拠点が置かれ、利用されている。それに比べると日本の場合は少なく、サービス拠点も中国に集中しているというのが実状である。これは、「日本語」という言語の壁による制約である。この点を解消するために、アジア新興国で生活する日本人の方々を雇用し、サービスを構築するというのは、前回の記事で述べたとおりである。
このパターンは、アジア新興国進出パターンにおける(ア)の日本市場志向型のアジア新興国進出と同様に、より安価な人件費を求めるという動機から成立することが多いと言えるだろう。
(2)現地市場向けのサービス拠点としてアジア新興国でのオフショアBPOを実施(現地市場志向型オフショアBPO)
このパターンは、果たして成立するのだろうか。日本のBPOサービス企業が、新興国に拠点を置き、現地の企業に対して、サービス提供するというビジネスモデルに、競争力と差別化を見い出すことができるのか。一見すると、そのような見方になる。
しかしながら、このBPOサービスの対象には、アジア新興国の現地ローカル企業のほか、アジア新興国に進出した現地日本企業、アジア新興国に進出した現地海外企業が存在する。アジア新興国に進出した現地日本企業に対してBPOサービスを提供するということを考えると、これが絵空事でないことはご理解いただけるだろう。現に、前回の記事で紹介した、タイ・バンコクのBPOセンター(Delivery Thai Co.Ltd)では、今後、現地タイに進出した現地日本企業や現地ローカル企業に対してもサービス提供を行う計画が既にある。
そして、アジア新興国に進出した現地日本企業に対してサービス提供が可能であるならば、アジア新興国の現地における商習慣や規制などを考慮したサービス・ノウハウを蓄積することも可能であり、分野によっては、そのノウハウをもとに、現地ローカル企業や現地海外企業にサービス提供するという将来像も描くことができるだろう。
ただし、問題となるのは、アジア新興国において、なぜ日本のBPOサービス企業を選ぶのか日本企業がサービス主体であることによる価値が存在するのか、という点である。
(3)グローバル市場向けのサービス拠点としてアジア新興国でのオフショアBPOを実施(グローバル市場志向型オフショアBPO)
このパターンは、どうか。これも一見すると、現実的ではないように思われる。少なくとも一足飛びに、このパターンに持っていくことは難しい。
このパターンが成立するためには、いくつかの条件が備えられる必要がある。その条件とは、1.クライアント企業がアウトソーシング化を考える業務・サービスである、2.アジア新興国で実施することによるメリットが存在する、3.日本企業がサービス主体であることによる価値が存在する、ということである。
1.は、アウトソーシング化が進む昨今においては幅広く検討することができるため、クリアしやすいだろう。2.は、単純にコストメリットを求めるだけでもクリアすることができる。問題となるのは、3.の条件である。
これは、(2)の現地市場志向型オフショアBPOのパターンにおいて、日本のBPOサービス企業が、新興国に拠点を置き、現地ローカル企業や現地海外企業に対してサービス提供することを考えた際に、問題となった点と同じである。
ここまで、アジア新興国進出における、主だった3つのパターンをオフショアBPOに当てはめて整理してみたが、(2)の現地市場志向型オフショアBPOの一部、及び(3)のグローバル市場志向型オフショアBPOのパターンを成立させるためには、越えなければならない問題があることがわかった。この問題、すなわち、「日本企業がサービス主体であることによる価値は何なのか」という点と、これらのパターンを成立させるアプローチについて検討しよう。
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