“ハンター”ではできないこと:ヘッドハンターの視点(1/2 ページ)
わたしは一通り彼(本社人事役員)の話を聞いた後で「あなたは御社の日本法人が日本でどう言われているか知っていますか?」と聞きました。
「ヘッドハンター」は、クライアントのニーズにマッチした人を探す以外のこともします。契約型エージェントが主に採用を担当するのは社長、副社長、役員などのポジションなので、外資系の場合には、本社やAsia/Pacificリージョンオフィスの役員から依頼が来ます。残念ながら彼らは日本の状況をよく理解していないことも多く、間違った理解のまま採用プロジェクトをスタートさせようとすることがあります。
外資系中堅IT企業(A社)は急成長していましたが、業界の評判はよくはありませんでした。ノルマが異常に厳しい、離職率が高い、社内の雰囲気が悪い、パートナーから嫌われているなどの噂が絶えませんでした。
ある日、A社の本社人事役員(Bさん)から電話がかかってきました。日本法人の営業役員を採用したいとのこと。BさんはA社に長く務めており、愛社精神も強く、いかにA社が素晴らしい会社かを長々と語り、「こんなにいい会社なのだからA社に来たい人はたくさんいるはずだ、この採用プロジェクトはとても簡単だろう」と誇らしげに言いました。わたしは一通り彼の話を聞いた後で「あなたは御社の日本法人が日本でどう言われているか知っていますか?」と聞きました。Bさんは「どういう意味だ?」とちょっと電話の向こうでムッとした様子でしたが、A社に関してわたしが聞いていた評判を一部Bさんに伝えました。
Bさんは「そんなわけがない!うちはすごくいい会社なんだ!アメリカでは常に働きたい会社のTOP50に入っている!」と声を荒げて反論してきました。
「あなたが言っていることが間違っているとは言っていません。それは事実かもしれない。でも日本市場での“認識”は違うのです。前提が間違った状態で採用プロジェクトを始めてもいい結果は得られませんよ」と伝えました。
Bさんはとても不機嫌な声で「お前は離職率が高いと言っていたが、俺の部下から報告された日本法人の離職率はわずか5%だ、これが高いというのか?!」と言いました。
わたしは正確な数字はわかりませんでしたが、5%というのはあり得ないと確信していました。「わたしが市場から得た感触としては御社の離職率は15%以上のはずです。今一度確かめてみてはいかがでしょうか?」とできるだけ冷静に言ってみました。Bさんは「分かった。調査してまた来週電話する」と言って電話を切りました。後から聞いたことですが、Bさんはこの時「なんて無礼なやつだ、絶対に数字を突き付けて謝罪させてやる!」と思ったそうです。
1週間後、Bさんから電話がかかってきました。「日本にいるから会いたい。」とのこと。「あれ?来日するなんて言ってなかったのに・・・・・・」と思いながらも彼に会いに行きました。
明らかに以前の電話の印象とは違う白髪のダンディな米国人がにこやかに迎えてくれました。そして「お前はうちの離職率が15%と言っていたな」といい、持っていた資料を指さして「間違っているよ、23%だ」と苦笑いしながら言いました。彼の部下が報告していた5%は彼が思っていた計算とはかけ離れた方法で出した数字だったのです。それが分かった途端にBさんは問題の重要性を察知して日本の実情を把握すべく、すぐに来日したのです。
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