関係性から、未来は生まれる:なぜ組織は「迷走」するのか(5/7 ページ)
最終回となる今回は、リレーションシップ・クライシスを乗り越え、事業自体に劇的な変貌を起こしていくための原理と解決の糸口をご紹介します。
中堅上場企業 S社の例
この「地層モデル」は、人間の心の動きを表しているものであるためイメージをしにくいかもしれません。そこで、最後にリレーションシップ・クライシスを乗り越えていくプロセスをより、より深くご理解してもらうためにわたしのクライアントであるS社の例をご紹介したいと思います。
S社は、サービス業でありながらも、類まれなるビジネスモデルを確立したことにより、創業時から順調に業績を伸ばし、ITバブルの時期に見事上場を果たしました。
しかし、上場そのものが目的であり、目標となってしまっていたために、組織としての大義名分がなくなり、上場益を確保できたことに満足した役員や社員から順に組織を離れていくという状況に。
そして、その次の成長戦略を描けなかったこともあり、上場企業として求められる右肩上がりの成長に陰りが見え始めたことがきっかけとなり、大株主からのプレッシャーが日に日に強くなっていき、経営陣から組織の末端まで徐々にリレーションシップ・クライシスに陥っていきました。
特に、経営陣の間ではリレーションシップ・クライシス状態が顕著で、創業社長一人が息巻いているものの、ほかの経営陣は文字通り、「笛吹けど踊らず」の状態です。
そのような状況の中で、リレーションシップ・クライシスを解決するプロジェクト(このケースでは、経営陣を対象にした対話)が始まりました。
対話を開始した時点では「経営陣のわれわれから変わらねば!」「今のままでは、上場後に入ってきた成功体験のない社員がかわいそうだ」といった意見が交わされました。しかし、一通り話し終えると、沈黙が訪れ、その沈黙を埋めるがごとく、社長が堰を切ったように話し続けるという状況に。そして、その社長の言葉すら「危機の『機』という文字は、『機会』を意味するんだ。ピンチこそチャンスなんだ!」という痛々しく思えるくらい無理やりな前向き発言に陥ってしまっていました。この状態が、第一層「ナイスな言動をする層」です。
この状態から抜け出るために、まず『安全な場づくり』を行いました。『安全な場づくり』とは、一言でいえば「何を言ってもいい」という状況を作ることですが、これは言い換えれば、「発言を巡っての禍根を『一切』残さない」ということです。何のために対話を行い、何を果たそうとしているのかを共有し、そのために自分たちが心がける約束を自分たちで作るなどの過程を通じて、「発言を巡っての禍根を『一切』残さない」スペースを作り上げました。
すると、そこから「社長が全然、人の話を聞かない」「役員の経営者としての自覚が足りない」「ミドルマネジャーのブレイクダウン力がどうしようもなく欠けている」「そもそも、株主構成が間違っている」などなど、それぞれが普段から抱えている思いがぶちまけられはじめました。
しかし、1時間も経たないうちに、まるで同じ動画を何度も再生しているかのように同じ人が同じ主張を繰り返す状態に陥り、瞬く間に話し合いが機能不全の状態に。さらに深刻なのは、本人たちが没頭しているあまり、動画の再生状態に陥っていることに気づいていないことにありました。
そこで、ファシリテーターであるわたしの方から投げ掛けを行い、以下のようなやり取りを行いました。
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