関係性から、未来は生まれる:なぜ組織は「迷走」するのか(6/7 ページ)
最終回となる今回は、リレーションシップ・クライシスを乗り越え、事業自体に劇的な変貌を起こしていくための原理と解決の糸口をご紹介します。
ファシリテーター 「いったんここで、止めてみましょう。この一時間で、皆さんが掲げた『実現したい状態』にどのくらい前進したか、10点満点で自己採点してみてください。一体何点でしょうか?」
経営陣 「0点です」
ファシリテーター 「そうですね。とすると、今、わたしたちは地層では第何層にいるでしょうか?」
社長 「第二層『人や自分を評価・判断する層』だな」
役員 (全員同意)
ファシリテーター 「そうですね。すると、ここに大きなチャレンジがあります。それぞれ皆さんが持っている『無自覚な諦め』はいったい何でしょうか? それが第三層「『諦めと皮肉』の層」にアクセスするための唯一の鍵です。これは自分の体臭を嗅ぐくらい難しい行為です。よくご自分を観てください」
しばし沈黙が訪れ、やがて口を開いたのは、副社長でした。
「わたしは社長を諦めています。社長のワンマンの経営スタイルは上場までは通用しますが、これからは通用しないと思います。しかし、それ以上に諦めていることは、その社長の座を譲り受けるほどの器が自分にはないということです」と、顔をひきつらせながら、自己開示を行いました。
一瞬、場に緊張感が走ったが、次々と自己開示が始まり、社長自身も「役員のみんなに対して、『どうせ、お前らには社長の気持ちはわからんだろう。上場したらすぐに辞めてしまった奴らと同様に都合が悪くなったら逃げるに違いない』という諦めが昔からあるし、今もある」とご自身の正直なお気持ちを明かされたのです。
一通り、自己開示が終わった後はこれまでになかった親近感が場に生まれており、「われわれがこんな諦めを抱えていたんじゃあ、組織が迷走状態に陥るのも当たり前だ」という認識に全員がたどり着きました。しかし、それは投げやりでもなく、皮肉めいた雰囲気でもなく、「これはなんとかせねば」という意志のある無条件降伏でした。
そこで、次に、社内外で起きている事象を整理し、全体“象”の探究を全員で行いました。全体の構造を整理し、全体“象”が共有されたところから、このままいくと起こり得る未来はいったい何かを話し合った結果、たどりついた答えは「このままいくと、2年以内には社長を含め役員全員が解任される」という絶望的な未来。この現実にたどり着いた瞬間、場にまた静寂が訪れました。
全員の表情はこわばっており、明らかに緊張が見て取れる。その緊張が表していることは、その絶望的な未来はかなりの確率で現実化することと、それを避けるためには相当の覚悟が必要だという自覚と「本当にそんなことができるんだろうか?」という不安の表れ。これが、第四層である『恐れの層』にたどり着いた状態そのものです。
その沈黙を破ったのも副社長だでした。「このままで、たどり着く未来が解任なら、われわれは腹をくくるしかないでしょう。われわれに求められているのは、全力でやり尽くすのはもちろんのこと、残される社員に私たちの『生き様』を見せてあげることだと思います」
それは、初めて経営陣が一致団結した瞬間でした。バラバラだった経営陣の頭も心も、1つになったのです。
そこから、全員でリバイバルプランを練り上げ、会社全体に公表し、プランの実行とともに全社ダイアログの推進に踏み切りました。
現在もその活動は進行中ですが、この対話の直後に「経営陣が明らかに変わって、遅刻する社員が激減した」と社員自身が変化を実感できる状態が即座に生まれ、業績回復の兆しが見え始めています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.