経営者感覚を政治に生かす
この4月に行われる統一地方選。一般的に注目されているのは東京都知事選である。ワタミの創業者、渡邊美樹氏が都知事選への出馬を表明した。高齢化が進み、財政にも限度がある東京都には、「マネジメントが必要である」として経営者感覚を売りにする。
自民党は石原現知事を担ぎ出すようだが、民主党はどうするのだろうか。蓮舫参議院議員を担ぎ出せば勝てるかもしれないが、昨年の選挙で圧勝したばかり。1年もしないのに党の都合で都知事選に出るというのでは、投票してくれた有権者に何と言い訳するのだろうか、などと考えてしまう。
とはいえ、停滞する国政よりも地方が面白いのも事実である。愛知県では2月6日、知事選、名古屋市長選、名古屋市議会の解散に関する投票と「トリプル選挙」があった。河村市長が圧勝したばかりか、河村氏とタッグを組んだ大村秀章氏が県知事に当選、さらに名古屋市議会は解散することになった。市議会議員選挙は3月13日に行われるが、当然、市長の河村氏が代表を務める地域政党「減税日本」は、定数75議席の過半数を目指して40人の候補者を擁立するとされている。
もし「減税日本」が名古屋市議会の過半数を握れば、約束どおり、市議会議員の報酬が半分になって、市民税の10%減税が実現することになるはずだ。これをやらなければ、名古屋から日本の民主主義を立て直すという河村構想そのものが嘘だったことになる。ここで興味深いのが、知事に当選した大村氏と河村氏が、大阪維新の会の応援を受けたことだ。
大阪維新の会は、大阪の橋本徹府知事が立ち上げた地域政党である。そしてそのマニフェストには「大阪都構想」がうたわれている。大阪都構想とは、大阪府と大阪市と堺市という二つの政令指定都市を東京都のように改編して特別区にしようというものだ。聞きようによっては、2つも政令指定都市を抱えて、府知事としての実質的な権力(あるいは指導力)が発揮できないことへの橋本知事の苛立ちのように聞こえるかもしれない。
しかし橋本知事が投げかけた問いは、日本の民主主義の在り方を問い直すものだと思う。大阪市の人口は260万。ひとつの国にも匹敵するような基礎自治体(さまざまな住民サービスを提供する最も身近な自治体)が果たして住民のニーズに適したサービスを提供できるのだろうか。それが橋本知事の問いである。
横浜市は大阪よりも大きく人口368万だ。結局、横浜市という強大な市の下には、18もの区が存在する。この18区にはそれぞれ区役所があり区長がいるが、要するに市役所の出先ということだ。これまで日本の基礎自治体は、財政的に豊かな自治体を除いて、規模を拡大する方向で動いてきた。それが財政を安定させると考えていたからである。さらに政令指定都市になれば、県から権限が委譲されるということもあった。平成の大合併によって、市町村の数は大きく減ったが(もちろん首長も議員の数も減っている)、合併特例債で借り入れた借金は増えた。
本当に基礎自治体が「大きいことはいいことだ」と今でも言い切れるのだろうか。政令指定都市になれば、県からの権限委譲とはいっても、実際に県と無関係にさまざまなことが決められるわけでもない。広域開発などはやりやすくなるに違いないが、それはインフラ整備が自治体の発展に大きく貢献すると見込まれていた時代の話である。
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