生まれ変わる自治体
しかし時代は変わっている。GDP(国内総生産)で中国に抜かれたことが象徴しているように、日本経済そのものが成熟してしまった経済、換言すれば「縮む経済」なのである。新たにインフラを整備することよりも、高齢化する人口をどうやって支えていくか(支えることが雇用の増加にもつながる)という構造を考えなければならない。そういう中では、大きくすることが将来も安定することではないかもしれない。
さらに言えば、河村名古屋市長が言うように、市町村の住民が地方自治を通じて政治を変えていくという感覚に目覚めるには、この基礎自治体というものの在り方を根本的に考え直す必要がある。日本の政治体制は、明治維新以来、基本は中央集権だ。中央が任命していた県令が、選挙で選ばれる県知事になったのは地方自治の精神に則ったものだが、中央政府はさまざまな形とりわけカネで地方を縛ってきた。それが権力だからである。
中央にすべて吸い上げられるような構造が、政治の停滞や腐敗を生んできたことは明らかだと思う。その意味で、大阪都構想、中京都構想、さらには新潟県と新潟市などが、地方自治の新たな形をめざす動きとして注目されることになる。日本の民主主義、ひいては政治がどのように変わるのか。それを占うのは3月の名古屋市議選と4月の大阪府議選、大阪市議選、堺市議選などである。
既成政党に対するノーが地域政党にどれだけ反映されるか。春になるとさまざまな生き物が動き出す。日本の政治にも新しい命が吹き込まれることになるのだろうか。今年の統一地方選はいつもとは違う。
著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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