50代に求められるキャリアチェンジ……それは新たな自分作りのスタート地点となる
やや視点を変えて、「下降と離脱」のキャリアショックのこの時期を積極的な意味で捉えてみよう。50代社員にとって、この時期に遭遇するキャリアショックは避けることの出来ない職業人生の関門であろう。好むと好まざるとに関わらず、役職定年や再雇用の検討時期がくる。制度の一律適用の見直しなど制度上の改善も考案されているが大筋は変わらないであろう。
だが、この時期を乗り越えることによって、多くの50代社員は自分の生かし方を学び、新たな組織や現実の仕事との適合性を高めていく。さまざまなショックを味わいながらも仕事人生を前向きにとらえ、この先も自分なりに意欲を持ち会社に貢献する必要性について身をもって知る。いわば、この時期のキャリアチェンジの試練を経験することが、その後の定年、再雇用のセカンドキャリアのスタート地点を作るとも言える。
この状況を乗り切る一つのヒントが「トランジション理論」だ。(図表2参照)トランジションとは、ある状態から次の状態への"移行"のことだが、そのステージを単純化していえば、次の3つになる。
(1)ステージ1=継続してきたことの終了の認識:過去続いてきたことが、ある時期を境に終わりを迎えたことを理解する
(2)ステージ2=ニュートラルゾーン:「転機」の訪れを理解し、不安や後悔、葛藤と戦いながら、次のために自己の資源を探しながら新たなスタートを切る日がくることを確信する
(3)ステージ3=次の始まり:あらためて自己の人生戦略を練り、活躍イメージや方向性を定め、その準備や行動に移る
この理論の優れたところは、起きてしまった過去にこだわり続けるのではなく、目の前の"現実の変化"を理解し、次にどのような考えや行動を取るべきかを導く点であり、カウンセリングやワークショップなどの場で広く支持されている。思わぬキャリアチェンジに遭遇した50代社員が、気持ちを切り替え、変化を新たなチャンスとして捉え、再度自分の目標に向かってスタートを切る、この考え方は大変役立つ。
役職定年など大きなキャリアチェンジは、単に職種の変更や責任の軽重の問題ではなく、働く意味や生き方などの価値観とも関係する。50代社員に求められることは、企業と自分との関係を再考しながら、自分が自律した人間になることである。従来の「会社人間」として通用していた自分を問い直し、自立した「仕事人間」への変容を考えることである。
だが現実にはこのような自律意識への転換も不十分なままに制度が運用されていくことから、50代社員のさまざまな問題が起きている。企業が50代社員に期待する働きをさせたいなら、このキャリアショックが現実のものとなる時期を「キャリアの節目」と位置付け、今後のキャリアのあり方を明示し、50代社員が自分のキャリアを自律的に考え、選択できるようキャリアカウンセリングなどの個別支援の環境を仕組み化することが重要である。
次回は50代社員のキャリアのモチベーションの源泉を探り、どのようにこれを上げていけばよいかを考える。
著者プロフィール:片山 繁載(かたやましげとし)
1953年生まれ。大学卒業後、日本マンパワーに入社。教育事業部長、人材開発営業本部長を経て、その後再就職支援事業部門を立上げキャリアカウンセラー&人事・キャリアコンサルタントとして事業に従事。97年以降、キャリア支援コンサルタント、キャリア・デザイン・プログラムの開発・インストラクター、キャリアカウンセリングなどを経験。現在教育研修&人材事業担当取締役。CDA(キャリア・ディベロップメント・アドバイザー)、メンタルヘルスマスター。
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