iPadの企業導入は進むも、セキュリティやコストに課題:iPadで躍動する職場(4/4 ページ)
企業に業務改善をもたらすツールとして注目を集めているのが、iPadをはじめとするタブレット端末だ。本稿では、ビジネスユーザーの調査データを元に、企業におけるiPad活用の可能性について、ITアナリストが分析、解説する。
企業における今後のクライアント戦略
社内における課題を尋ねた結果を図9に示す。割合が高かったのは、「人材不足」の55%、「情報共有、コミュニケーションが非効率的である」の52.7%であり、過半数を上回った。3割程度の割合となった項目には「スキル伝達の仕組みがない」(39.3%)、「売上の低迷」(39%)、「部下が育たない、上層部の理解がない」(35.7%)が含まれていた。調査結果からは、人材、コミュニケーション、コストに対する課題の重要性が分かる。これらの課題は、クライアント・デバイスへの対応だけで解決できるわけではないが、ITと人との接点であるクライアント・デバイスをうまく活用することで課題解決の手助けになるケースも多々あるはずだ。
例えば、よりビジュアル化された業務マニュアルによって、経験が浅い人材でも業務への対応が可能となったり、携帯電話の接続性とPCの表現力を併せ持つクライアント・デバイスを利用することで、コミュニケーションや情報共有のスピードと質を改善できたりする。さらには、ドキュメントを電子化することで紙文書を削減し、会議スタイルを変えることで、コストを削減するといった可能性もあるのではないか。
図10は、すべての回答者にiPadやタブレット端末をどのような用途で利用できるかを尋ねた結果である。61.6%と最も割合が高かったのは「営業用のプレゼンテーション端末として」である。次いで「メールやスケジュール管理作業用のモバイル端末として」(59.2%)、「モバイルPCの代替機として」(50.7%)、「社内情報閲覧や社内会議用の端末として」(40.5%)、「社内ペーパーレス化の実現手段として」(36.7%)が続いた。特に上位3つは割合が50%を超えている。
これらの結果を見ると、回答者の多くは基本的に情報閲覧や情報表示を目的とした使用を考えていることが分かる。ただし、上位はいずれも先行企業での使用例としてメディアやベンダーが紹介したもの。「モバイルPCとは別のモバイル端末として」「役員やエグゼクティブ用の端末として」「e-ラーニング端末として」という回答の割合も2割程度あったことから、企業ではさまざまな利用目的を考えてはいるが、事例情報が少なく、現時点ではその可能性を探っている最中であるといえよう。
図11は、企業導入が進む場合、推進者は誰(どの部門)になるかを聞いた結果である。最も高い割合となったのは「IT部門」の34%だったが、「社長/経営層」(30.3%)や「営業や生産などの現場部門」(20.3%)と、IT部門以外を挙げた回答も多かった。「総務部門」は3.3%と割合が低かった。
このことから、iPadやタブレット端末は、従来のIT機器や電話機とは異なり、ユーザー主体での導入が中心となることが予想される。理由としては、スマートフォンと同様にiPadやタブレット端末も個人利用が先行しており、その利便性を知ったエンドユーザーが企業でも利用を望むというコンシューマーITの特徴を持った製品だからであろう。
では、企業でiPadやタブレット端末を利用する場合の課題や改善点は何か。図12を見ると、最も高い割合となったのは「セキュリティ機能」(62.2%)で、「機器のコスト」(50%)、「アプリーションソフトの対応状況」(45.2%)、「Windows PCとの互換性(Webブラウザ、Officeツール)」(44.2%)、「管理ツール」(37.1%)と続いた。
現在の企業活動において、セキュリティの確保は最も重要な課題の1つであり、特にモバイルデバイスだと、盗難、紛失、さらに第三者にのぞき見されるなどのリスクが高まる。また、iPadなどを全社的に展開した場合、1台当たりのコストは小さくても、全体でのコストには注意を図る必要がある。
一方で、「特定ベンダーの独自製品であること」に対する回答は少ない。一般的に企業ITで重要と言われてきたオープン性や標準への準拠といったものは必ずしも重要ではない。「既存のWindows PCと機能差がないこと」に対する割合も低かったことから、企業では、Windows PC用に作成したファイルやアプリケーションの互換性、つまり相互利用性は求めても、Windows PCと同じ機能をタブレット端末には必ずしも求めていないことが分かった。
無線LANの整備は必須
今回の調査では、「通信コスト」(31.3%)や「通信品質」(26.5%)については中庸だったが、iPadやタブレット端末を有効活用するためには、今後、ネットワーク接続環境の整備と管理が重要な課題になる。図13では通信回線の設置状況を、図14ではPCに対するインターネット接続に対するアクセス状況をそれぞれ尋ねている。
現状では、社内で「有線LAN」を設置している割合は75.2%と高いものの、「社内無線LAN」(11.9%)や「データカード」(6%)など、そのほかのネットワーク接続環境の割合は低い結果となった。
iPadには音声通信機能がなく、たとえ音声通信が可能なタブレット端末であっても、携帯電話やスマートフォン比べて音声端末としての利便性は劣るので、もしiPadやタブレット端末を社内で展開する場合は、通信環境の整備や3G回線の利用コストが増加してしまう可能性が高い。
また、社内でインターネットに対するアクセス制限をかけていない割合は22.3%と少なく、7割以上の企業では何らかの制限を行っている。iPadやタブレット端末は、無線LANまたは3G回線を標準で装備しており、携帯電話に比べて表示能力が高いことから、これらの端末に対するアクセス制限をどのように行うかも、今後企業にとって重要な課題となるであろう。
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