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「真の価値創造のために同質化競争からの脱却を」――一橋大学、延岡健太郎教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/3 ページ)

日本の製造業は大きな転換期を迎えている。従来型のモノづくりでは価値を創出することが困難になっていることがその背景にある。この変化を乗り越えるためには、モノづくりのあり方を改めて見直すことが不可欠だ。そこでのキーワードが、顧客が主観的に決める価値である「意味的価値」だ。

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モノづくりはもはや価値づくりに直結しない!

 製造業にとっての使命が、モノづくりを通じた価値創出であることに異論を挟む向きはあるまい。より大きな価値を創出するほど、より高い価格で商品を売ることができ、企業は利益を拡大させることが可能になる。その結果、研究開発により大きな予算を割くことでモノづくりの高度化が見込め、国により多くの法人税を納めることで、社会貢献に寄与することもできる。


一橋大学の延岡健太郎教授

 ただし、モノ作りを取り巻く環境が大きな転換期を迎えている。一橋大学イノベーション研究センター教授の延岡健太郎氏は、3月3日に開催された「第12回 ITmedia エグゼクティブ ラウンドテーブル」の基調講演の冒頭で、その理由を次のように解説した。

 「1995年ごろを境に、モノづくりが価値づくりに結びつかなくなった。事実、あれほど成功したDVDプレイヤや薄型テレビの開発メーカーでさえ、最終的にほとんど利益を上げられていないのが実情だ。その理由として強調したいのが、モノづくりは品質向上やリードタイムの短縮とは強い相関関係があるものの、もはや価値づくりには直結しなくなっているという事実である」

オープンイノベーション時代のモノづくりとは

 こうした環境にあって成功を収めたメーカーが、PCメーカーのデルとエイサーである。両社に共通するのは、自身では技術開発をあまり行わず、外部企業から調達した部品を組み立て販売するというビジネスモデルを採用している点。従来、モノづくりにおいては自前主義での商品開発が利益の極大化につながると考えられてきた。だが、「オープンイノベーションの進展を背景に、他社との協業を選択した方が競争優位を築ける場合が多い」(延岡氏)ことを両社の成功からも伺うことができる。

 「エイサーの強みは、意思決定の早さにある。この点を高く評価し、技術力のあるベンチャー企業が同社での製品の採用を目論み、最先端の部品を提案しに訪れる。エイサーが他社よりも先進的な商品を販売できるのもまさにそのため。これも、技術革新により部品のモジュール化が進んだことで、モノづくりに注力しなくとも大きな付加価値を生み出せるようになったからだ」(延岡氏)

 国内に目を転じると、一部のメーカーで製造工程を外部委託するなど、外部企業の活用機運も着実な盛り上がりを見せる。液晶テレビを手掛けるある国内メーカーは、商品開発や製造工程のほぼすべてを外部企業に丸投げしつつ、汎用的な部品をいわば寄せ集めることで、40インチながら初めて10万円を切る価格の製品を実現した。ただし、「すべての製品で開発委託やファブレス化が進むと、日本のモノづくりは生き残れない」(延岡氏)。その上で、「多くの一流と呼ばれる日本企業は、現状、モノづくりに力を入れながら、残念ながら低い価値しか生み出せていない。日本企業が培ってきた強みを生かすためにも、高機能・低付加価値型から高機能・高付加価値型のモノづくりに舵を切ることが、日本企業に強く求められているのだ」と強調する。

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