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「真の価値創造のために同質化競争からの脱却を」――一橋大学、延岡健太郎教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/3 ページ)

日本の製造業は大きな転換期を迎えている。従来型のモノづくりでは価値を創出することが困難になっていることがその背景にある。この変化を乗り越えるためには、モノづくりのあり方を改めて見直すことが不可欠だ。そこでのキーワードが、顧客が主観的に決める価値である「意味的価値」だ。

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日本品質だけでは売ることはもはや不可能

 現在、日本企業は約900兆円の負債を抱えており、そのことを不安視する声も日増しに高まっている。延岡氏はその原因を、「一重に日本のモノづくりが価値を生み出せていないため」と断言。国の財源は企業の法人税に依存する割合が少なくなく、価値を生み出せていれば予算もより潤沢にあったはずだからである。

 では、なぜ日本企業は価値を生み出せなくなったのか。その要因の1つが市場と技術の双方がここまで成熟したために、モノづくりにおける同質化が進んでいることだ。事実、売上高が10億円以上の企業を対象にした財務省の法人企業統計によると、企業の売上に占める付加価値の割合は2003年度から下落し続けており、2008年度にはついに13%を割り込んだ。2000年度ごろまでは18%前後を推移していたのにも関わらず、である。

 「日本企業の多くは景気低迷下で業績を取り繕うために、基礎研究をやめ人減らしを続けてきた。その影響は調査結果に如実に表れている。一方で、付加価値がこれほど低いということは、市場にプレーヤーが多く、同質的な競争になっていることを意味する。同質的な競争では、社会的な存在意義は限られる。つまり、半数程度の企業に消費者は退場を迫っているのである。生き残るのは、オンリーワンの製品を提供できるメーカーだけだ」(延岡氏)

 価値づくりに取り組む日本企業が当惑していることの1つが消費者の価値観の変化だ。過去、日本製品はその高い品質で消費者の支持を集め、海外市場を席巻した。だが、競合他社も品質向上に取り組んできた結果、「品質が総じて底上げされ、日本品質だから売れるという時代は終わりを告げた。加えて、そこそこの機能で満足する消費者も増え、低機能ながら安価な製品を選択する消費者も増えている」(延岡氏)。

 ただし、低機能な製品は開発が容易なだけに、過当競争に巻き込まれる可能性も小さくない。この問題を克服することに成功した象徴的な存在がアップルだ。同社はiPhoneで大きな成功を収めたが、「5年前であれば故障を危惧する顧客もいて、これほど売れなかったのではないか」と延岡氏。さらに、独自開発のiOSの採用などを通じて、これまで類を見ないほどの高い使い勝手という新たな価値を生み出すことに成功した。

 「スペックだけで比較すれば、iPhoneに見劣りしない日本製品も少なからず存在する。だが、アップルはタッチパネルの操作性にとことんこだわり、他社製品との大きな差別化に成功した。他社が真似できない独自の強みを実装できなければ、過当競争によって製品、さらに同社の将来も危ういことをアップル自身も把握していたはず。だからこそ、タッチパネルなどは外部から調達する一方で、操作性の決め手となるソフトウェアはOSも含めて、とことん独自開発にこだわったのだ」(延岡氏)

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