キャリアショックに負けない50代社員の活用とメンタルタフネス強化策:50代ミドルを輝かせるキャリア開発支援(1/3 ページ)
肩書が無くなり、給与がダウンする中で、人は自分を守るために「心の固さ」を増す。前向きな組織にするためには心の固さを解きほぐし、強い心を培う必要がある。
本稿連載中に東日本大震災がありました。このたびの東北地方太平洋沖地震において被災された皆様・ご家族関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。被災地の1日も早い復興をお祈り申し上げます。
前回は、キャリアの下降期にある50代社員を活性化・活用するには、単なる制度だけでは人は変わらず、企業ぐるみのキャリア支援が必要であることと、また、残り期間において、より企業貢献をしてもらうため「回収投資」の考え方でキャリア支援を行うことを提案した。
ただ、現実課題としては、外面的な適応が進んでいるように見えても、個人の心がすんなりと切り替わるはずはない。肩書きが無くなり、給与がダウンする中で、人は自分を守るために「心の固さ」を増す。だが、前向きな組織適合のためにはその固さが障害になる。今回は、適応過程を通じ、「心の強さ=メンタルタフネス」を培うには、どのようなキャリア支援が効果的かを考えていきたい。
「分かっているのですが、気持ちの切替えができないんです……」=50代のキャリアチェンジの難しさ
これは、筆者が担当しているある流通業の会社で実施している、再任用者のキャリアデザイン研修時の、キャリアカウンセリングで聞いた言葉だ。厳しい販売環境を背景に業界の再編成が進む中、従来の管理職層の現場シフトが行われている。
彼は、仕入れ部門の50代前半のY課長。入社以来商品企画・仕入れの花形部門を一貫して歩んできている。まもなく訪れる役職定年を前に、催事の現場部門への異動が内示されている。役職は一格下がってチーフ職、担当職務は催事企画全般。
上司からは、次の職場でも頑張るように言われているが、これまで仕入れ部門の責任者として15年以上の経験をもつ彼は、そこに強い自負心があり、なんとも気持ちの切り替えが進まないという。
役職定年者は専門職に移行するのが通例だが、現実には現場管理のできる人材不足の折から、この会社では実力ある人には再任用制度をつくり、一つ下位の役職につけて、従来業務や新業務を担当させている。
この会社が、再任用者に求めていることは次の3点。
(1)気持ちを切り替え、後輩である上司を補佐し、同僚を支え部下を育む役割を再認識する
(2)企業人生の先輩として、後輩社員に模範を示し、責任感をもって仕事に取り組む姿を見せる
(3)組織貢献目標を意識し、自己のキャリアビジョンをもって生き生きと働く
研修後のカウンセリングは、新しい環境を受け入れて頑張るか、この際、辞めてバイヤーとして転職するかに及んだ。最後には、現職にこだわりつつも、「環境は変えられない、変わるのは自分の方。同じやるなら催事で、また一花咲かせてみるか」、ということとなった。大学1年の娘さんがおり、生活をかけての転職リスクは背負えない。一見割り切ったように見えるが、この決心もまだ心残りのようであった。
キャリアチェンジを生かす人・つまづく人=「心の固さ」とメンタルタフネスの問題
我々は長い職業人生の間に、望む昇進・昇格・ローテーションの上昇キャリアと前後し、不本意な異動配置も数回経験する。とりわけ50代以降のキャリアの下降期には、これらのキャリアショックは頻繁に起きる。肝心なことは、少々のことですぐ心が折れないよう、「心の強さ=メンタルタフネス」を強化し、在職する限り自己の元気さを失わないようにすることだろう。
一般的に、キャリアチェンジがうまく行く人は、大筋の状況を理解し、今後の身の処し方、自己の生かし方について、早く気持ちを切り替えることができる。自分を生かす上で「心のしなやかさ」を持っているのだ。筆者はこのような方を「自己活用能力」の高い人とみている。単に打たれ強い、俗に言うストレス耐性が高いというのとは少し違う。この点は後述したい。
逆にキャリアチェンジがうまく行かない人は、過去にこだわり、表面的には馴染んでいるように見えても、“内心の納得”ができず、「心の固さ」を宿しがちだ。とくに管理職層の人には、その立場、経験のプライドがこの「心の固さ」となり、これが新たな適応への自己防衛機能を果たすため、本人も組織も何かと問題が多くなる。
「心の固さ」は悪いものではない。それが心の奥底に宿っているなら、“過去の適応の強み”として肯定的にとらえ、新たな環境適応に積極的に生かすことだ。剪定すると、木々が節目から次々と枝葉を伸ばしていくような感じだ。
このように、節目、節目で望まない現実も受入れながら、「自己調整」をはかり、新たな活路を見出していく。この過程で人は自分の「心の強さ=メンタルタフネス」を強化していく。そのイメージが図表1だ。ストレスを避けるのではなく、自分なりにキャリアショックを乗り越えた実感こそがストレス耐性を作っていくのである。
支援をする上で、大切なことは、ショックから立ち直る支援と同時に、その環境を再度自分のものとして受け入れて、新たな働き方ができ、十分組織の求める期待や生産性に応えられるまで見届けることだ。現状では多くの企業がこの一時的な立ち直り支援で終わっているように思える。
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